漫才は売れてもそんなに稼げない
男女にかかわらず、お笑いをやることの難しさは今も感じているという。
「厳しい世界やからね。漫才は売れてもそんなに稼げないし。人気になってもずっと仕事があるとは限らないでしょ。よっぽど好きで覚悟がないと続けられないと思います」
そうは言いつつ、花江さんは今も舞台に立ちたいと願う。
「やっぱり、ウケたらうれしいですからね。コロナ禍になる前は、お芝居や講演の仕事がけっこうあったのに、このところお呼びがかからなくなったのは寂しい。87歳の私に、先の仕事を頼むのは怖いというのはわかるんやけど。私は元気やし、自分では年をとったつもりはない。これからもできる限り舞台に立って、ウケたいんです」
花江さんが幼かったころ、姉の歌江さんと照枝さんは少女漫才師として、軍需工場に何度も慰問に行っている。大人の芸人の中には、海を渡って戦場に慰問に行った集団もあった。その移動中に爆撃を受けて命を落とした女性芸人もいる。
戦争が終わり、かしまし娘たちが華やかに楽しく笑わせる世の中が訪れたことは、なんと幸せなことだろう。年を重ねても、元気に笑わせ続けられることは、なんと尊いことだろう。
笑う自由、笑わせられる自由。先人たちが拓き、花江さんたちがつないできた道を今、多くの女性芸人たちが颯爽と歩む─。
構成・文/伊藤愛子●いとう・あいこ 人物取材を専門としてきたライター。お笑い関係の執筆も多く、生で見たライブは1000を超える。著書は『ダウンタウンの理由。』など