なお、宮崎駿氏の前作(といっても10年前だが)「風立ちぬ」は10位以内にはランクインしていないが、14位につけており、十分にヒットしたと言える。
アニメ、特にジブリ作品は老若男女が楽しめる作品が多い。なかでも子連れの家族の動員が見込めるため、ヒット作が生まれやすいと言える。
好調なのは「アニメだから」「ジブリ作品だから」「(10年ぶりの)宮崎駿監督の作品だから」というのが大前提としてある。
しかし、それだけで宣伝しなくてもヒットしたことを十分説明できているとは言い難い。
「スラムダンク」とは似て非なる宣伝戦略
プロデューサーの鈴木敏夫氏は、昨年公開されたアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」(以下「スラムダンク」)をモデルにして、“宣伝しない戦略”を採用した――と語っている。「THE FIRST SLAM DUNK」は、150億円の興収を記録し、歴代ランキングで9位に付けており、大ヒットしたと言ってよい。
ただし、「スラムダンク」と「君たちはどう生きるか」では、実際の展開は大きく異なっている。
「スラムダンク」のほうは、公開1カ月前に声優やビジュアルは公開されていたし、予告映像も公開しており、劇場でも映像は流されていた。入場者特典として、ビジュアルカード、ミニポスター、ステッカーなどを配布するというプロモーションも展開されていた。
あらすじが公開されていないことが話題になったが、本作は過去のコミックやアニメの蓄積があり、映画単独の作品ではないため、「どんな映画なのか?」ということは、情報が出なくてもある程度推測することは可能だった。「スラムダンク」の場合は、「情報を出さない」というよりは、「情報を小出しにする」戦略だったと言えるだろう。
一方の「君たちはどう生きるか」は、事前に公開された宣伝素材としては、鳥と思しきイラストが入ったポスター1種類のみであり、本当に宣伝は行われず、ポスター以外の情報もまったく出ていない状況だった。劇場パンフレットも、公開日ではなく、公開後の発売予定となっており、発売日さえ知らされていないという状況だ。
「スラムダンク」のヒットの要因として挙げられるのは、「口コミ効果」だ。本作は公開初日に、ツイッターのトレンドランキングで1位を記録し、見た人の絶賛する評価が拡散した。映画レビューサイトでも、Filmarksで4.4、映画.comで4.2、Yahoo!映画4.3で(2023年7月23日時点)の高評価を得ている。
「君たちはどう生きるか」もツイッターのトレンド入りはしていたが、作品の評価は賛否両論だった。映画レビューサイトの評価は、Filmarksで3.8、映画.comで3.5、Yahoo!映画で2.9の評価で、やはり賛否両論になっている。