3について、初動においては、東京などの大都市圏の集客力が強く、地方が弱かったという傾向が見られたという。
実際に、SNS上で地方の劇場では空席が目立ったという口コミも散見された。一方、私自身を含め、都心で観賞した人は「満席だった」という報告が多かった。
これまでは「情報は情報感度が高い人から低い人へと流れていく」というのが、口コミマーケティングの一般的な考え方だったが、情報の伝達にはタイムラグがあったり、情報の伝達には分断が生じたりするというのが現実的なところのようだ。
それを考えると、高齢者や地方在住者といった都会の口コミが届きにくい層、SNSやサイトを積極的にチェックしていない層には、広告という形で情報を送り届けることも有用ではないだろうか。
全体のまとめとして、4について考えたい。
これまで、広告・宣伝費は最初の段階で大枠が決まっていることが多かったし、金額は予想、あるいは計画される売上とおおよそ比例していた。
作品や商材によって有効な戦略は異なる
「スラムダンク」から「君たちはどう生きるか」に至る“宣伝しない戦略”を見て、「情報を出さない」「出す情報を絞る」という方法が、規模の大きな作品でも、あるいはそういう作品であるからこそ、高い効果を発揮しうることが判明した。
今後、「予算ありき」で宣伝計画を立てるのではなく、「情報をいかに出すのが有効か」という判断に基づいて、宣伝予算、宣伝計画を立てることが重要になる。
作品や商材によっておかれた環境、有効な戦略は異なる。うまくやるためには、担当者にはこれまで以上に高度なスキルが求められることになるだろう。
「君たちはどう生きるか」が今後どのような情報の出し方(あるいは出さないやり方)を取るのか、それによって継続的なヒットを生み出せるか否かという点も非常に興味深いところである。本作の今後の推移を注視していきたい。
西山 守(にしやま まもる)
Mamoru Nishiyama
マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
1971年、鳥取県生まれ。大手広告会社に19年勤務。その後、マーケティングコンサルタントとして独立。2021年4月より桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授に就任。著書に単著『話題を生み出す「しくみ」のつくり方』(宣伝会議)、共著『炎上に負けないクチコミ活用マーケティング』(彩流社)などがある。