北原さんは掘り出し物

朗読会の衣装で。施設利用者さんとの仲良しショット
朗読会の衣装で。施設利用者さんとの仲良しショット
【写真】デビュー間もない北原佐和子が美人すぎる

 北原が准看護師として働くのぞみメモリークリニックの木之下徹院長は、認知症訪問診療の第一人者として知られる。2人の出会いは古く、施設や勉強会ですれ違ってきた。

「仕事はまじめだよ。クソがつくぐらい。世間一般が元アイドルの彼女に対して抱いているイメージより、はるかにまじめで勉強家。正義感も強い。だから融通が利かないときもある。長年の介護を通じて感覚的に、経験的に理解した部分もあるかと思うけど、さらにその先があるので、いっそう深めていただきたい。もっともっと伸びる人だし、このクリニックでもすでに中心的な存在になっている。そして、社会がよりよくなるような言葉を発信できる存在になってほしい。北原さんは掘り出し物なんだよ」

「マイ・ボーイフレンド♪」と右手を振りながら歌った北原も還暦の年を迎え、同級生には親の介護をしている人も少なくない。母親が若年性認知症になった友人は、いつもおしゃれをして、年に1~2回は海外旅行に行っていたのがすっかり地味になって、部屋も埃が積もっているのがわかるくらい汚れている。

「“せめて家をきれいにして自分を華やかにしてね”と彼女に伝えました。“認知症だからといって何も感じてないわけじゃない。あなたの姿を見てお母さんは切ない気持ちなのかもしれないよ。前みたいにおしゃれにしていてね”って伝えたのです」(北原、以下同)

 介護は簡単ではない。家族は四六時中、思いもかけないことに振り回されてしまう。医師を含め、介護する側は切り離せるが、それができない家族はどっぷりつかり、大切なことが見えにくくなる。その防波堤となれるのが行政であり、ケアマネジャーであると思い至った北原は、この12月からケアマネとして地域医療への取り組みを始める。

丁寧な字で何でもメモ! 北原のまじめで几帳面な性格がうかがえる
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「資格を取ったとき、チーム連携を学びました。医師や看護師、理学療法士や作業療法士らを取りまとめ、利用者さんの介護プランを立てていくのですが、先生方の言っていることがわからず、なかなかイメージができませんでした。そのとき56歳。若い人たちと一緒に学んで、准看護師の資格を取ったのです」

 クリニックには車で出勤。車内で朝食をとり、SNSのフォロワーへの朝のご挨拶。毎回1000近くの“いいね”がまたたく間につき、コメントが多く寄せられる。

「もちろん私にも、つらいときも悲しいときもある。“芸能人はSNSにネガティブなことを書かないほうがいい”という声もあるけど、それじゃ人間味がないと思うんです。私もみんなと同じ、生きている人間。自分の感じたことを、今は素直に発信したい」

 アイドルとして華々しくデビューしたが、若いころにはどん底まで叩き落とされた。時にもがき、苦しみながらも明るく前向きに生きてきた。今、周囲に気を配りつつも自分を生きる北原がいる。元アイドルは骨太に超高齢社会を支えようとしている。

<取材・文/増田幸弘>

ますだ・ゆきひろ フリーの記者・編集者。スロバキアを拠点に、国内外を取材。主な著作に『プラハのシュタイナー学校』(白水社)、『イマ イキテル 自閉症兄弟の物語』(明石書店)などがある。