だが、一方がどんなに嫌がっても、もうひとりの親に問題がないとわかれば、アメリカの裁判所はいずれ共同親権を認める。ピットは酒もやめたし、行動面での評価も良かったので、最終的に半分の親権が与えられるのは避けられないと、ジョリーはわかっていたはずだ。

 しかしジョリーはそれを断じて受け入れたがらず、この裁判を「担当した判事がピットの弁護士とビジネス関係にあった」と指摘し、不適任だったと主張して、この判決を取り消しにしようとした。ピット側は、「彼の弁護士とこの判事の関係は隠されていたわけではなく、最初からわかっていたものだ」と反論したが、カリフォルニア州の最高裁はピットの主張をしりぞけた。

 ピットに近い別の人によれば、ピットは周囲に「彼女は子供たちが全員18歳になるまで親権争いを引き延ばし、子供たちが父親とは何のかかわりも持ちたくないと思うようになるよう持っていくつもりだ」と話しているらしい。

子供たちは母の側に

 そして、ピットの言う通り、事態はジョリーの思惑通りに向かっているようだ。ジョリーの連れ子だった長男マドックス君は最初から母親の味方で、破局以来、ピットとは疎遠のまま。次男パックス君は、2020年、インスタグラムに「世界級の酷い男へ、父の日おめでとう」と投稿した。長女ザハラちゃんは、前述した通りラストネームから「ピット」を外したし、次女シャイロちゃんは母と慈善活動のイベントに参加するのが好きで、母娘の絆を深めているようである。一方、一番下の双子は現在15歳。定期的に面会はしていても、日常生活に父がほぼいない状況で人生の半分を過ごしてきたことになる。

 3年後、全員が親権の対象外になり、定期的に父と面会する必要もなくなったら、ジョリーが願うように、彼らは父とかかわらないで生きようとするのだろうか。

 そうなったら、ジョリーはきっと満足するだろう。しかし、大人になった彼らのうち何人かが、将来いつか「今年の感謝祭はパパと過ごそう」と思ってくれる日が来ることを陰ながら願いたい。


猿渡 由紀(さるわたり ゆき)Yuki Saruwatari
L.A.在住映画ジャーナリスト
神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。