なお、2023年は例年以上に芸能人の摂食障害のカミングアウトが目立ち、元AKB48の岡田奈々やモデルの関あいかなどが赤裸々な告白をしたが、遠野のインパクトには及ばない。それは彼女が、病気を「武器」にもできているからだろう。かつて難病とされた結核を患いながら攻撃的批評をし続けた俳人の正岡子規は「病人だから我慢してくれる。病人は得なもの」と言ったとされる。

 彼女もまた、毒舌が売りで、例えば江角マキコが不祥事などもあって引退した際「あんなに威張ってたくせにね」と言い放って話題になった。病人であることを隠すことなく、それも含めて私だという姿勢を貫いていることから、なんとなく許される芸風だ。

「転」ばかりの人生

 と同時に、摂食障害の歴史においても重要な役割をこなしてきた。カレン・カーペンターダイアナ妃ほどの大物ではないものの、病気であることを認めて長年発信していることで、日本における象徴的存在となりつつある。

 とまあ、いささか持ち上げすぎかもしれないが、それも彼女の生き方が痛ましく、同情を禁じ得ないからだ。そういえば先日、彼女が11年前にゲストヒロインを務めた2時間ドラマが再放送されていた。

クリスマスに1人でご飯を食べたと報告した遠野なぎこ(本人インスタグラムより)
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 10代で水商売をしながらDV男から逃げてその男との子どもを産み、その後、女優として成功。政治家と結婚するものの、隠し子(演じていたのは当時16歳の田中樹)などの過去をバラすと脅される役だ。脅していた男たちが殺され、犯人と疑われる流れだったが、彼女は無実で、最後はハッピーエンド。ただ、実際の人生はそれほど簡単ではない。起承転結が用意されているドラマと違って、遠野のように「転」ばかりが延々と続くような人生もある。

 出会いと別れ、安心と不安をめまぐるしく繰り返す、そんな彼女にしかできない生き方をこれからもしていくのだろう。

宝泉薫(ほうせん・かおる)アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。