「事情を知らない人」は語るな
今回の件も一緒で、ドラマ化をしたいと申し出ているけれど、本心は「メディアミックスだ、嬉しいだろう」と原作者や作品を下に見ている。ドラマ化されれば漫画は確実に売り上げが伸びるでしょうから、編集者もある程度テレビの言うことを聞かなくてはならない。テレビ局と出版社は今後もビジネス上のおつきあいを続けていくために、正面衝突を避けるでしょう。そうなると、原作者という後ろ盾のない個人にしわ寄せがいってしまう。その結果、原作者が「誰も味方がいない」「私の言っていることはわがままなのだろうか」と追い込まれてしまうと思うのです。冒頭、ドラマの脚本家の嫌味たっぷり発言をご紹介しましたが、家族や友達同士で話すならともかく、SNSにのせるべき内容ではなかったと私は思いますが、こんなことができるのは、脚本家もまた「自分の背後には、日テレという大組織がいる、自分が書いてドラマにしてやっている」という特権意識を持っているからではないかと思うのです。
テレビが一種の権力であることは疑いようがありませんが、そこに出演する人の権力意識も気にかかります。1月30日放送の「ミヤネ屋」(読売テレビ)で、ドラマの脚本家がSNS上でバッシングされていることを憂慮したMCの宮根誠司は「事情を知らない人がSNSでいろんなことを言う怖さというのは、十分認識しておかないといけない」と個人攻撃をたしなめています。憶測で誹謗中傷をしてはいけないというのは全くの正論ですが、宮根理論でいうのなら、番組は「真に事情を知る人」であるドラマの最高責任者であるはずのプロデューサーや脚本家を取材してコメントを取って来るべきではないでしょうか。それをせずに「事情を知らない人」は語るなと言うのであれば、宮根サンだって語る資格はないはず。「事情を知らない人」という言葉の裏には、シロウトがごちゃごちゃ言うんじゃねーよと一般人を下に見る意識が隠されていないでしょうか。
宮根サンはこうも続けています。
「原作者ももちろん、脚本家の方もドラマを良くしようと思って書いていらっしゃったと思う。それぞれがそれぞれの思いで作品をよくしようとしていたにもかかわらず、こういうことになってしまった。だから、SNSで安易に人を攻撃してしまうということは、自重してほしい」
一見正論風ですが、よく聞くとおかしい。日本テレビが原作者との約束を守らず、筋書きを変えたことは明白であり、因果関係があるとは断定できないものの、こんな悲しいことが起きてしまった。それなのに、日本テレビは「うちはちゃんとやりましたけどね」と木で鼻を括ったようなヤバコメントですませようとしているから炎上しているわけです。つまり、炎上の原因は日本テレビにあるのに、なぜ節度を持った一般人の言論までも統制されなければならないのか、私にはわかりません。
旧ジャニーズ事務所が性加害を認めた際、テレビ局だって知らないわけはないのに、各局は高みの見物のようなコメントを出していました。喜多川氏はスターになりたいが故に喜多川氏を拒めない、弱い立場の少年を毒牙にかけ、なんでもいいから視聴率がほしいテレビ局は見て見ぬふりをした。そういう意味で、テレビ局は旧ジャニーズ事務所と同じ体質を持つ共犯者であるとすら言えます。
‘23年6月7日配信の拙稿「ジャニーズの闇はテレビ局も“共犯” 櫻井翔、性加害言及も浮き彫りになったタレントキャスターの限界」において、テレビ局が数字され取れれば何でもいいという体質を改めないのなら、思わぬヤバい暴露が待っているかもしれないと書きましたが、テレビ局が権力を持たないフリーランスや一般人を軽く見てやりたい放題を続けるのであれば、今後はもっともっとヤバい事実が明るみになるかもしれません。
<プロフィール>
仁科友里(にしな・ゆり)
1974年生まれ。会社員を経てフリーライターに。『サイゾーウーマン』『週刊SPA!』『GINGER』『steady.』などにタレント論、女子アナ批評を寄稿。また、自身のブログ、ツイッターで婚活に悩む男女の相談に応えている。2015年に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)を発表し、異例の女性向け婚活本として話題に。好きな言葉は「勝てば官軍、負ければ賊軍」