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「彼らの気持ちに触れて心の森林浴をさせてもらった。いつも帰り道は、すっきりさわやかな気持ちになっていたんです」
作家の寮美千子さんと夫の松永洋介さんは、彼らと過ごした授業を冒頭のように表現した。
累計10万部。詩集として異例の売り上げを記録した、奈良少年刑務所の受刑者たちによる詩集『空が青いから白をえらんだのです』(新潮文庫)の第2弾『名前で呼ばれたこともなかったから』が1月29日に発売された。
少年刑務所の受刑者たちが紡いだ詩
奈良少年刑務所に収監されているのは、少年院とは違い、強盗・殺人・レイプ・薬物違反などの重い罪を犯した17歳~25歳の男性だ。
この詩集の編者の、寮さんは松永さんとともに2007年から奈良少年刑務所が閉庁するまでの9年間、受刑者たちに絵本と詩の授業を開いてきた。
怖くはなかったのですか? という質問に寮さんは、
「お話をいただいたとき、正直戸惑いはありました。私ひとりでは怖いという思いもあったので夫と2人ならお受けすると伝えたら承諾してもらえたので、2人でやらせてもらうことになったんです」
寮さん、松永さんは口をそろえて、
「全部で186人の子と向き合って怖い思いをしたことは1回もないし、彼らがキレるということも1回もありませんでした」
と振り返る。
「全員が本当に素直な子で何度も“どうしてこの子がそんな恐ろしいこと(事件)を?”と思わずにはいられませんでした。彼らが何をして収監されているかは開示されないし聞いてはいけないのですが、自分から言ってくる子、事件が大きく報道されて犯した罪がわかる子もいました。ただ目の前にいる彼らとその罪が結びつかなかった」(寮さん)