芸名はイメージを左右する“記号”
若いころ、勢いでつけた芸名はのちのち面倒なことにもなる。浅草キッドの玉袋筋太郎はNHKに出演するときなど「玉ちゃん」という名前に変えたりしているし、生瀬勝久は朝ドラ『純ちゃんの応援歌』に出演する際「槍魔栗三助」という芸名がNHKのコードに引っかかり、本名でやることにした。おかげで生瀬は、現在放送中の『ブギウギ』まで計5作の朝ドラに出演できている。
一方、阿部の場合はそこまで不適切ではなかったということか、芸名を変えずに今までやってくることができた。2019年には『いだてん〜東京オリムピック噺~』でNHK大河ドラマの主役まで務めたほどである。
『いだてん~』は史上まれな攻めた大河だったし、今回の『不適切にも~』もまた、コンプライアンス重視の状況を逆手にとったかのような攻めた作品。阿部サダヲというきわどく攻めた芸名だからこそ、そういうものにハマりやすいし、視聴者もとっつきやすいとも考えられる。
芸能人にとって芸名は商標であり、さまざまなところでイメージを左右する記号なのだ。このキワモノっぽい芸名を受け入れた瞬間こそ、人生最大のターニングポイントだったともいえる。なお、彼は少年時代「カッコマン」と呼ばれるほどの目立ちたがり屋だったという。たしかに、そういう性格でなければ、美男美女ばかりの芸能界で勝負する気にならないだろう。
イケメンの役者が増えれば増えるほど、隙間産業としての価値も高まり「演技派」「個性派」としてのイメージも強化される。ある種の「身のほど知らず」的な生き方がこれほどの成功を呼び込んだのだ。
とまあ、容姿をネタにそこまで言い切ってしまうのも、今どき、不適切にもほどがある、かもしれないが─。
ほうせん・かおる アイドル、二次元、流行歌、ダイエットなど、さまざまなジャンルをテーマに執筆。著書に『平成「一発屋」見聞録』(言視舎)、『平成の死 追悼は生きる糧』(KKベストセラーズ)。