母の日記から、父の自白との矛盾を発見した寅子は、大学で法を学んでいる。『光る君へ』のまひろと並ぶ知性派ヒロインだ。彼女のモデルは、日本ではじめて女性の弁護士になり、のちに裁判官になった三淵嘉子。
明治大学法学部出身で、ドラマでは明律大学と名を変えている。戦前、原則として、大学で学ぶことができる者は男子に限られていた時代、明律大学には女子部があった。そこに入学した寅子たちは努力のすえ大学に進学する。
途中、法改正によって女性も弁護士になれるようになるが、それまでは法で定められていないため、法律を学ぶ女性は応援されなかった。女性をはなから馬鹿にしたり、勉強を続けることを問題視して婚約破棄したりする男性もいるなか、寅子と何人かの志ある女性たちは、無理解や偏見を打破しようとする。
ドラマジャンルで人気の「リーガルエンタメ」と謳ってもいて、男女平等でなかった時代に、平等を勝ち取るべく奮闘する社会派の物語が、堅苦しくなりすぎないようにいろいろ工夫されている。
楽しく見ているうちに、寅子のように法を学ぶことで、法に縛られるのではなく、その解釈によってよりよい生き方を発見できるのではないかという目からウロコの発見がある。
いまNHKのドラマで「知性派ヒロイン」を描く重み
ドラマを見て癒やされて現実のしんどさをひととき忘れることもいいけれど、ドラマで描かれた問題を他人事ではなく自分事として捉えることも、ときにはいい。そうして、ドラマの中の人たちのように言葉を尽くして、不利な状況を有利に変えるべく一歩前に出ることができればなおいい。
『虎に翼』はそんなきっかけを作るドラマだ。ドラマに背中を押されて、SNSで発言している人たちも少なくない。
『光る君へ』のまひろも、先述したように文字によって状況を打破しようとしている。まひろは文字を書き残し、寅子は文字(法律)を読み解く。文字――言葉に、願いや祈りをこめて書くこと、その声を的確に読み取ること。
それらに必要な知性や教養の重要性を、いま、この国で最も多くの人が見て話題にする注目度の高い朝ドラと大河ドラマが放送していることを重く受け止めたい。
まひろも寅子も、学べば学ぶほど、生き生きし、その眼差しは輝いていくのだ。
木俣 冬(きまた ふゆ)Fuyu Kimata
コラムニスト
東京都生まれ。ドラマ、映画、演劇などエンタメ作品に関するルポルタージュ、インタビュー、レビューなどを執筆。ノベライズも手がける。