彼にとって、この大病は2つ目の大きな転機。第1の転機は50歳のときのこと。「50歳までダメダメな役者人生でした」と自嘲し、心機一転演技の勉強を始めている。

今回の病気は「神様がくれたプレゼント」

「演技は全然できないし、自己中心的で、仕事もだんだんなくなってきた。仕事がないということはお金もなくて、ニッチもサッチもいかなくなってしまった。ロケに行ったとき“この飛行機が落ちてくれれば残りのローンが払えるのにな”と思ったり、自暴自棄になった時期もありました。でも演技が少しでもうまくなれば、もう一度役者として復帰できるのではと考えて─」

 演技を学び直し、道が開けた。かつては大河の常連で、1983年の『徳川家康』に始まり、『春日局』、『信長 KING OF ZIPANGU』、『徳川慶喜』、『元禄繚乱』と出演を重ねてきた。

「今また大河に出していただける俳優に戻ってこれた」と言うとおり、今回『光る君へ』で25年ぶりの大河出演を叶えている。

 演技の勉強を経て開講したのが「非・演技塾」。生徒はプロの役者に限らず、幅広く演技の魅力を伝えている。そこでの気づきも多いという。

演技を勉強し、そしていろいろな人に演技をお伝えすることで、自分に向いていた意識が相手に向けられるようになった。これはもう死ぬまで学んでいかなければダメだなと日々感じています。演技というのは非常に面白い。演技が好きだということに、演技を学ぶようになってから気づきました。呼んでいただける限りはこの仕事を続けていきたい。今回の病気も“さらに頑張れよ”って、神様がくれたプレゼントなのかな、なんて思っています

取材・文/小野寺悦子 

はしづめ・じゅん 1960年、東京都生まれ。出演作は映画『ゴジラVSスペースゴジラ』、ドラマ『若大将天下ご免!』、舞台『細雪』など。NHKでは大河ドラマのほか、『小吉の女房』、連続テレビ小説『エール』などにも出演。現在「まなびのスペース スタジオファジオス『非・演技塾』」の講師も務める。9月より舞台『本能寺が燃える』に出演。