もし、それだけの人物であったなら魅力に欠けていただろう。
「幅が狭くて、記号でしかなくなっちゃう。仏頂面をどこまで崩して、どこまで遊ぶのかは常に探っていましたね。表情で表現できない代わりに、他の部分でできることはたくさんあるので」
伊藤沙莉は「迷いがない」
その代表格は団子。食べようとした瞬間、寅子に話しかけられるのがお決まりだ。
「無視して食べればいいのに、食べない。話すなら(団子を)置けばいいのに、置かない。どういう人間性なのか、なんとなく伝わるじゃないですか。団子とトラちゃんの話、どっちを優先するのか迷ってるっていう表現になる。今回、そんな部分をいろいろと探れたし、試せた。記号的な桂場ではない、また違った見せ方をいつも考えていました」
ついに桂場は最高裁長官に就任。物語は尊属殺の重罰規定について、違憲か合憲かを争う裁判へ。
「桂場は平等性、公平性がすごくある人間だと思うんですが、穂高先生(小林薫)の思いを何とか完遂させたいし、任期の中で何とかしようと思っていたこともいろいろある。ついには自分の意見や公平性すらも切り捨てて、司法の独立のために舵を切っていく。トラちゃんや法曹界にいる人たちにとっての敵や壁になる瞬間があります。
(寅子と桂場の)理想と理想のぶつかり合いみたいな。ひとりの人間が最高裁長官になってジャッジをするのは本当に難しいことだし、時代によって正解も変わってくる。そして認めることは本当に大切なことだと思いますし、認めてからどう対峙し、付き合っていくのか。ぜひ最後まで見届けていただければと思います」
伊藤沙莉のすごさって?
桂場とは、何かと相対することが多い主人公・寅子。演じる伊藤沙莉をどう見ている?
「僕なんかよりも出番が多く、毎日撮影に励んでいる状況だと思うんですが、"電池切れ”みたいになることがまったくない。それは本当にすごいと思います。僕は大河ドラマ(『平清盛』'12年)で経験していることなんですけども、電池切れになると役の方向性が迷子になったりする。
それを修正しようとすることさえ考えられなくなる状態は何度か経験しているんですけども。なんとなく沙莉ちゃんを見ていると、迷いがないように感じていて。そこが本当にすごいなと思いますし、体力あるな〜って思います」