「パーンと乾いた爆発音と地響きがして、あっという間に紙切れみたいなものが飛んできてね。上空にキノコ雲ができたくらいだから、それはすさまじかったですよ」
と事故現場近くの住民は当時を振り返る。温泉を汲み上げる施設にガスが充満したため破裂したのだが、施設は吹き飛んでがれきと化し、あたかも戦場のようだったとも。
’07年6月、東京都渋谷区の女性専用高級温泉リゾート『松濤温泉シエスパ』が爆発。女性従業員3人が亡くなり、女性従業員2人と男性通行人1人が重傷を負った。
当初、メディアは運営会社の『ユニマットビューティアンドスパ』や、ユニマットグループの責任、遺族への対応の悪さなどを追及。あるいは、スパ業界の寵児であった宮田春美元社長(当時39)の華麗なる遍歴や、元AV女優だったことまでも書きたてた。
しかし、’13年5月、東京地裁はユニマット側への罪は問わず、設計と施工を担った『大成建設』の設計担当者に禁錮3年、執行猶予5年の判決を下した。換気に構造上の問題点があり、必要な説明を怠ったなどとしている。
大成建設で現場監督をやっている社員は、怪訝な表情を浮かべてこう述べる。
「設計ミスだなんて、そんないい加減なことをやっていたとは信じられないですね」
昨年6月、東京高裁は控訴を棄却。現在は最高裁に上告中で、そろそろ結審するころだ。遺族の1人は、
「3月いっぱいで結論が出ると聞いていたのですが、いっこうに音さたないんですね。ユニマットが遺族などへの補償をかわりに支払っているので、それを大成建設が少しでも先延ばししたいんでしょうか。日本最大のスーパーゼネコンこそが巨悪ですよ!」
と怒りをあらわにする。
一方、ユニマット側は大成建設を相手取り、108億円の損害賠償を求める民事訴訟を起こしているが、こちらも継続中。ユニマットの事故対策室が金額の内訳を説明する。
「壊れた温泉をくみ上げる施設、特殊な構造なのでリフォームがきかないビルや備品の分はもちろん、遺族や重傷者への補償、爆発で被害を受けた近隣住民100軒ほどへの補償、むろん私どもへの慰謝料も含まれた額です」
同時に、その民事裁判の意味合いについては、こう。
「刑事裁判では法人の責任を問うことができないため、設計者だけを断罪しています。しかし、これは一個人の責任というよりも、組織的、会社的な責任だと思うんですよ。さらに大成建設は、いまだに遺族への謝罪はひと言もない状態なんですから」
大成建設に謝罪の意思などを確認すると、「刑事と民事で裁判中なので何も答えられない」(広報室)とのこと。
事故後、六本木にあった同様の施設も閉鎖。『ユニマットビューティ』は消滅し、宮田元社長も退任。以降は足取りがぷっつりと途絶えている。
だが、日本有数の繁華街で現場ビルは事故の痕跡を残したまま、いまも姿をとどめている。不気味な怖さだ。
「どうやら、資材なんかを入れる倉庫として使っているようですよ。ビルを見るたびに事故を思い出すので、早く取り壊してほしいんだけどね」
と近所の住民は吐き捨てるように言った。