大人や子どもの歓声を一身に浴び人気をひとり占めしているのは、飼育員に差し出されたリンゴをつかもうと二本足で立つレッサーパンダだ。午後1時半ごろ、エサやりの時間帯には、人垣ができる。
千葉県千葉市動物公園。’05年5月、「直立するレッサーパンダの風太くん」の存在が、テレビや新聞で取り上げられると一躍、ブーム到来。入場者数は前年比約15万人増の、80万人を突破した。
「レッサーパンダ舎の前に職員がつきっきりで人混みを整理する時もありました」と飼育員の濱田昌平さんが、往時の人気を振り返る。石像が寄贈され、テレビドラマにも出演。今も園内を歩けば、ポスターやお土産、食事のメニューなど、至るところで風太くんの立ち姿が目を引く。
「休日のエサやり観衆は100人を超えます。平日も20~30人はいますし、年間100日以上来る常連さんも10数人いらっしゃる」(濱田さん)と抜群の集客力を今も示す。
50代の男性常連ファンは、
「5年前から月に5、6回は来ているかな。風太くんは仕草がとてもかわいい。最近、以前ほどは立たないけどエサやりでは素早く立ちますよ」
とうれしそうに表情を崩す。
風太くんは今年の7月5日で12歳。レッサーパンダの寿命は約15年で、人間でいえば50~60歳。もう立派な中高年なのだが、獣医の世話になることもなく、健康に過ごしているという。
「立つ頻度が減ったのは寄る年波のせい?」という疑問を濱田さんにぶつけると、
「立つ必要がなくなってしまったからだと思います。レッサーパンダは普段、高いところにいると安心するんです。風太が来た当初の舎には高いところがなく、すぐ横が人の通り道になっていたんです。好奇心が強い風太は音がするとよく立って、何が起きているか覗こうとしていました。’11年初夏に舎を増改築し、心身を休ませられる高いやぐらができました。わざわざ立たなくても寝そべったまま見渡せるようになったんです」
今、風太くんが立つのはほぼエサやりの時だけ。役者の決めポーズに、待ってましたとばかり、歓声が響く。
「ブームを知らない小さなお子さんたちも、親御さんに“あれが風太くんだぞ”と教えられて、“わぁ風太く~ん”と呼んでくれたりする。長くみなさんに愛されているのを見るのはすごくうれしいですね」
風太くんは妻チィチィとの間で、子宝にも恵まれた。
「風太の最大の功績は、多くの子孫を残してくれたことですね。10匹中8匹がちゃんと育った。風太の前までは、当園での繁殖はゼロだったんです。風太のおかげでレッサーパンダの家族が増えて、一昨年にはひ孫まで誕生しました。できれば生きている間に玄孫まで見られれば。僕の定年まで……あと8年あるんですが、そこまで元気に長生きしてほしいですね」(濱田さん)
レッサーパンダの名前を全国に広め、老若男女をメロメロにした美しい立ち姿は、子の「クウタ」やたくさんの子・孫たちに引き継がれている。
それでも、訪れる幼稚園児らが口々に大声で呼ぶ一番人気は「風太く~ん!」。人気の引き継ぎは、これからのようだ。