小島慶子さんの文章は美しい。産まれたての赤ん坊のように美しい。5、6年前に何かの雑誌に頼まれたという小島さんの文章を読んだときにそう思ったのだ。
小島さんがTBSを退社したばかりの頃だったと思う。その頃、退社したものの、そのまま続いていたTBSラジオの『キラ☆キラ』という小島さんがメインパーソナリティーを務める番組でボクは火曜日のコメンテーターとして一緒だった。
ボクは物書きだから、ラジオのオープニングトークなんかのとき、小島さんに聞かれて、よく「出版界はこんななんだ」なんて話していた。「こ~たりさん、書いたんです。見てください」と彼女がその原稿を持ってきたとき、「やっぱりな」と思ったし、その文章を読んだとき、「あ、新しい何かが小島さんのなかで始まったんだな」と思った。
いままでテレビ界にいた彼女が、こちら側にやってきたのだ。それは彼女にとって、アナウンサーという職業より合っているように思えた。
ボクはそのとき「近い将来、幻冬舎で小説を出すようになるかもね」、そう小島さんに言った。それが本当のことになったのだ。エッセイ本は出していたけれど、今回は小説だ。
ページをめくるごとに小島さんと重ね合わせてしまう。小説に出てくる女子アナのすべての人が、小島さんの一部のように見える。いや、小島さんでなくて小島さんが背負ってきた女子アナという“怪物”が見え隠れするのかもしれない。
美しい華やかな女子アナ界で繰り広げられる嫉妬や序列、会社というとてつもない廓のなかで生きていく女たち。花魁のように。
「女子アナになろうなんていう、ちやほやされたがる子たちって、きっと何か強いコンプレックスを抱えている」と本のなかにも書いてあるが、女子アナが自分のコンプレックスと戦い、折り合いもつかず苦悩している姿が実に生々しい。やっぱり小島さんも苦しかっただろうな、なんて思ってしまう。小説だけどね。
〈プロフィール〉
神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari