■子育てと仕事を両立させるシングルマザー専用シェアハウス
(株式会社ストーンズ取締役社長 細山勝紀さん)
「子どもたちが保育園から帰宅する18時以降のリビングは、毎日が大運動会さながらですよ(笑い)」そう言って不動産会社『ストーンズ』の細山勝紀社長が案内してくれたのは、3年前にオープンした国内初のシングルマザー専用シェアハウス『ペアレンティングホーム高津』。15年間空き家だった診療所ビルの3階を改装し、約200平方メートルの空間に個室8部屋を用意。居間、台所、浴室などを共有する8世帯17人の母子がひとつ屋根の下に暮らす。
“同じ趣味”をもつ単身者を集めたシェアハウスが主流となる中、細山社長が“同じ境遇”に目を向けるきっかけになったのは自社で働く母親たちの姿だった。
「保育園のお迎えの時間になると、残った仕事を同僚にお願いしなければならない。中には気をもんで退職する女性もいた。仕事と子育てを両立したいシングルマザーと、助け合いながら生活できるシェアハウスは親和性が高いと思ったんです」(細山社長、以下同)
’11年度厚生労働省の調査によれば、母子家庭は推計123万8000世帯。子どもを抱えて離婚を決意する女性は少なくない。
「私たちが入居対象にしたのはキャリアアップを目指すシングルマザー。福祉的な目線ではなく、自立志向の高い方の支援を考えました。現在、共同生活を送る母親たちは働き方も業界もさまざま。子どもたちはみな5歳未満の保育園児です」
家賃は月に約7万円、共益費2万5000円には水道光熱費、生活雑貨費のほかシッターサービス料も含まれる。この『チャイルドケア』が入居者たちに大好評なのだ。
「毎週火曜日と金曜日の午後5時〜9時まで、研修を受けたシッターが訪問し、栄養バランスを考えた食事の世話をします。週2回だけ買い物や食事のことを考えずにすむ。ここに資格の勉強や息抜きをする“自分の時間”が生まれます」
常に子どもから目が離せない状況から少しでも解放されたら、気持ちに余裕がもてる。要望を形にしたのは企画立案に携わった保育園経営者で自身もシングルマザーの女性だった。
サービスが利用できない平日の食事は各自で用意。しかし、臨時の仕事で帰宅が遅くなったり、出張が入ったりすることもある。対応を尋ねてみると、
「母親同士が“指名制”をルールに、子どもの預け合いをしています。以前、母親の帰りを待つ子どもを誰が世話をするのかで、もめたんです。曖昧にしていたせいで、同じ人ばかりに負担が偏ってしまった」
緊急時に、どの母親に子どもをお願いするのか全員に伝え、責任者を明確にする。そんなルールができて以降、上手な“助け合い”が成立しているという。
「入居者間にリーダーを作らないように3か月に1回ミーティングを開き、新しいルールの最終ジャッジは必ず運営者がします。第三者の上手な介入もトラブル予防につながるんです」
子どもたちは新しい家になじめているのか、利用者に話を聞いてみると、
「きょうだいが増えたような環境を気に入っています。いろんな大人の価値観に触れ、言葉を覚えるのも早いんですよ」(20代女性)
こんなご褒美タイムを喜ぶ素直な声も。
「金曜日の夜、リビングで女子会を開けるんです。1度寝かしつけた子どもが泣いてもすぐ対応できる。何より相談相手がいることに安心します」(30代女性)