7月7日の朝、広島の町はちょっといつもと違うそわそわ感で沸いた。ボクは遠く東京にいるから前の晩、広島の廿日市市という広島県の郊外に住んでいる妹にメールで頼んでみた。
「悪いんだけど、明日の朝、黒田の切手が発売になるんだ。買ってきてくれないか?」
7日に発売になったのは、日本郵便中国支社から広島県、山口県などの郵便局でオリジナル切手「黒田博樹選手広島東洋カープ復帰記念 一球の重み」5000セット。82円切手計10枚とクリアファイル、台紙で1セット2000円(税込み)。7月15日からはウェブサイトで、ファイルの代わりに大型はがきが付いた1500セットも2000円(税込み)で発売される。
妹夫婦は深夜の会議。
「やっぱり黒田なんだから争奪戦になるだろう、近所の小さな郵便局に行くか本局に行くか。本局のほうがいっぱいあるかもしれないけど、並ぶ人も多いかも……」
そしてその日の朝、義弟の秀道さんがオープン前に家の近所の郵便局に行ってくれた。すでに3人並んでいる。秀道さんは4人目。それから次々に並んで30人は並んだという。
9時にオープンになると、なんと1局に5セットしかないという。急遽ひとり1セットまでということになり、4人目の秀道さんは無事、購入できた。それからも車で近くの郵便局を回ってくれたらしいがどこも売り切れ。やっぱりすごい、黒田人気。
広島の人間にとってカープというのは特別な存在だ。広島の小学校ではカープについて学ぶ授業まであるところがあると聞く。
広島の小学校では原爆の日は登校日になり、その日の重みを考える。平和学習という授業もある。地元企業のマツダの勉強もするし、それと並んで、カープの授業がある学校もあるくらいなのだ。
とにかく広島の人間は、広島について幼いころからよく学ぶ。地元愛にあふれている人も多い。他県に比べたら断トツだと自負している。
メジャーリーグの名門、ニューヨークヤンキーズから8年ぶりに広島カープに電撃復帰した黒田。メジャーで21億6000万円の年俸を蹴って4億円の広島とサインした。前年度の税金分にもならない金額だという。
いちから育ててもらった広島に、もしメジャーから戻ることがあったら帰ってくると言っていたが、まさか本当に帰ってくるとは!!
広島の人間は沸きに沸いた。黒田投手が広島にせっかく戻ってきてくれた今シーズン、広島はずっと低迷していた。
けれど、やっと3位に浮上した。
待っていたぜ!
そんな矢先、黒田の選手登録抹消というニュースが入ってきた。右足と右肩の炎症、後半戦に備えて治療に専念するという。ただ、オールスターには出場予定だ。7月18日の広島・マツダスタジアム、オールスター第二戦では勇姿を見せてくれるに違いない。
そして、後半戦でも……。
今年勝たなくて、いつ勝つ!
黒田フィーバーに乗って、巻き返して欲しい。
〈プロフィール〉
神足裕司(こうたり・ゆうじ) ●1957年8月10日、広島県広島市生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。学生時代からライター活動を始め、1984年、渡辺和博との共著『金魂巻(キンコンカン)』がベストセラーに。コラムニストとして『恨ミシュラン』(週刊朝日)や『これは事件だ!』(週刊SPA!)などの人気連載を抱えながらテレビ、ラジオ、CM、映画など幅広い分野で活躍。2011年9月、重度くも膜下出血に倒れ、奇跡的に一命をとりとめる。現在、リハビリを続けながら執筆活動を再開。復帰後の著書に『一度、死んでみましたが』(集英社)、『父と息子の大闘病日記』(息子・祐太郎さんとの共著/扶桑社)、『生きていく食事 神足裕司は甘いで目覚めた』(妻・明子さんとの共著/主婦の友社)がある。Twitterアカウントは@kohtari