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 川崎市幸区の介護付き有料老人ホーム『Sアミーユ川崎幸町』で、昨年11月から12月にかけてわずか2か月の間に、入居する高齢者が施設から転落して死亡する事故が3件連続した。

 同ホームの不祥事はこれにとどまらない。3月には入居男性(83)が入浴中に溺死。5月には5人の職員が入居女性(86)に暴言を吐いたり、暴力を振るっていた。

 女性の家族が隠し撮りしたビデオには、職員が女性の頭をたたく様子が映っていた。女性を抱え上げてベッドに投げるように移動させたり、「うるせえババア」「死んじまえ」などと罵る職員もいたという。

 職員4人は自宅謹慎処分となり、1人は辞職したという。同じ5月、20代の男性職員は入居者19人から現金と貴金属類約200万円相当を盗んでいた。

 窃盗で逮捕された男性職員は懲戒解雇となり、裁判が進んでいる。この元職員は3件の転落死でいずれも当直だったことが判明。真相究明のキーマンともいえる。

 元職員の自宅を直撃した。窃盗事件は保釈申請が認められたようで、自宅から裁判所に通っている。午後8時5分にインターホンを押した。

――〇〇さんですね。

「はい」

――『週刊女性』です。連続転落死の話を聞かせてください。

「いえ、ダメです。私は関係ないですから、今日はお引き取りください」

――では別の日に出直します。

「いや、それもダメです。だいたい夜の8時を超えて取材しないというのが、記者クラブの自粛というか、自主規制になっていませんか?」

――県警クラブには所属していないので知りませんでした。

「近所の方の迷惑になるので、帰ってください」

 とプツリ。抑揚のない淡々とした口調が耳に残った。

 同ホームと周辺住民が交流する機会は少ない。地域の子どもとかかわる場を設ける施設もあるが、このホームでは地元の夏祭りの準備を職員が手伝うぐらいだったという。

「ただ、1年半ほど前、半数近くの職員が給料や職場環境の不満から、労働組合を作るとか、作れないとか騒いだあげく、集団で少なくない人数が辞めちゃってね。2か月ぐらいずっと、スタッフ募集の折り込み広告が新聞に入っていた。人手不足で大変だったみたい。毎週1回ぐらいの割合で、霊柩車が来ていたんだもの」(近所の男性)

 事実とすれば、集団退職によるサービス低下があった疑いも出てくる。運営会社に確認すると、「10人とかは辞めていない。辞めた人数は公表できない」とのことだった。

 職員1人あたり何人の入居者をフォローしていたのかわからないが、退職騒動の約半年後に連続転落死は起こった。

 転落死が事件だとすると、何が考えられるのか。新潟青陵大学・碓井真史教授(犯罪心理学)は、「目の前の面倒くさい、わずらわしいものを消すという単純、短絡的な犯行が考えられる。仕事が忙しすぎるとか、ストレスがたまるとか、そういう状況で機会が巡ってきて、引き金になることはありうる」と指摘する。

 老人ホームに親を預けたり、自分が入居するとき、何に着目すればいいのか。

「体験入所や見学は必須です。地域包括支援センターに相談するのもいい。施設長ら幹部職員の姿勢は一般職員に浸透します。セールスマンと同じで、話を聞いたときに、一方的に施設のいいところを話すようではおすすめできない。入居者側の話をよく聞いてくれる施設がいいと思う。入居後、例えば預けている親がおとなしくなったり、面会時に職員を怖がる素振りをみせたときは虐待を疑ってください」(介護関係者)

 事件なのか、たまたま転落死が相次いだだけなのか。真相はまだ闇の中にある。

〈フリーライター・山嵜信明〉