昨年5月下旬、自宅アパートの部屋で5歳児・齋藤理玖くんの白骨遺体が見つかった。
「(妻が出て行ったころ、性交渉は)なかったです。少なくとも半年から1年ぐらいは。(性欲処理は)エロ本は見ないで、ひとりで妄想で(自慰を)やっていました。(妻とは)ケンカが絶えなかったから」
元トラック運転手の齋藤幸裕被告(37)は、横浜地裁(伊名波宏仁裁判長)で9月24日に開かれた裁判員裁判の本人尋問でそう話した。検察側に責められて渋々話したわけではない。
事前に打ち合わせできる被告人側弁護士の質問に対し、妻との不仲や、性欲処理方法を積極的に明かしたのである。女性裁判員は露骨に眉をひそめた。夫婦ゲンカの理由をこう力説。
「(妻の)男関係がひとつの原因です。自分以外にもほかの男性と不倫、それに近い怪しい関係があった。携帯のメールを見たことが1度あって、(男性と)会う約束のような内容を見て、腹を立てて」
まるで夫婦関係が崩壊したのは妻のせいで、自分には非がないと言い立てるかのようだった。
これは離婚裁判ではない。わが子を餓死させた父親の殺人罪を問う法廷だ。まずは事件を振り返っておこう。
昨年5月30日、神奈川県厚木市のアパートで、齋藤被告のひとり息子である理玖くん(死亡推定当時5歳)の白骨化した遺体が見つかった。
きっかけは、その前年に横浜市であった6歳女児虐待死・遺棄事件。この事件を受け厚木市が市内の所在不明児の確認作業を進める中、小学校にも中学校にも進学していない理玖くんの存在が浮上した。警察官が自宅アパートを訪ねると……。
「ゴミ屋敷の中に理玖くんの遺体があった。周囲はゴミの山。窓は粘着テープで目張りされていたので、死臭が部屋の外に漏れることはなかったようだ。生きていれば中学生だった」(全国紙記者)
取材によると、理玖くんが3歳のときに母親(33)は家出し、齋藤被告が理玖くんの面倒をみていた。しかし、齋藤被告は理玖くんが死んだことを隠して月額約6万円のアパートの賃貸契約を継続。遺体は7年以上放置された。
神奈川県警は、十分な食事と水を与えず死なせたとして齋藤被告を保護責任者遺棄致死容疑で逮捕。齋藤被告は逮捕当時、新しい彼女と別のアパートで同棲生活していた。
検察当局は殺人と詐欺罪で起訴。裁判のポイントは「未必の故意」があったかどうか。理玖くんを殺す意思はなかったとしても、やせ細っていく姿を見て、いずれ死んでしまうと認識しながら放置すれば殺人罪に問われる。
検察側は冒頭陳述で、「被告は死亡する可能性が高いことを認識しており、殺意があった」と主張。齋藤被告は、「私は理玖を殺していません」と否認した。
適切な食事を与えなかったことも認めなかった。斎藤被告によれば、1日に2回、コンビニで買ったおにぎり1個と惣菜パン1個、500ミリリットルの飲み物を与えていたという。
しかし、それが次第に2~3日に1回、週に1回となったと供述調書にはある。
「それは取調官の誘導によるもの。長い時間、同じことを何度も何度も聞かれるうちに、早く終わらせたいという気持ちになったから、取調官の誘導に乗ったのかも」(齋藤被告)
〈フリーライター山嵜信明と本誌取材班〉