海外旅行先として、日本人はもちろん世界中で大人気のタイ。ところが最近、タイ国内における日本人の存在感が大幅に減少しているという。

 タイを訪れる日本人観光客は、154万人を記録し過去最高だった2013年に比べ、2014年は約127万人とマイナス17%。他国と比べても特に下落幅が大きく、明らかに日本人の客足は遠のいているのだ。

 多くの日系企業の進出も目立った日タイの蜜月関係に一体どんな変化が訪れているというのだろうか? 在タイ7年を越え、バンコクにある日系の保険会社に勤めるYさんは語る。

「2011年の大洪水の影響も大きいですが、一番の打撃はタイ国軍のクーデター(軍事政権樹立)による昨年の政治混乱です。2014年の成長率は0.7%にとどまるなど不安定な状況が続いていて、それに伴い、日本人による投資が減少している連鎖反応が起きています」

 成長が停滞する一方で、タイにおける物価は上昇の一途を辿っており、タイでの生活も年々厳しさを増しているのだとか。

 加えて、「バーツ高・円安という状況も日本人観光客が減少している一因」と唱えるのは、東南アジア諸国の旅行事情に明るく、『週末バックパッカー~ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』を上梓したばかりのライター・我妻弘崇さん。

「円高であった4~5年前であれば10000円をタイバーツに換金すると約4000Bほどでしたが、現在は3000Bを割り込みます。1バーツを約3円と考えると、同じ10000円でも3000円ほど損をした気分になる。タイに比べ物価が恐ろしく安いベトナムなどに行き先を変えるのも不思議ではない」

 このような状況下で、日本人観光客とは対照的にタイにおける存在感を増しているのが中国人観光客だ。2011年度は100万人台だった観光客数が、昨年は462万人。2015年度は560万人を超えるとも言われ、今や“最もタイを訪れる観光客”との呼び声も高い。タイ国内における中国人観光客のプレゼンスは増すばかりなのだ。

 ところが、タイではもろ手を挙げて歓迎ムードではないそうだ。日本でもたびたび問題になる中国人観光客のマナーは、タイ国内でも健在のようで、すこぶる評判がよくないという。前出・Yさんは興奮気味に話す。

「マナーが悪い、声が大きい、どこでも値切るなど、タイ人の多くが中国人にウンザリしていますよ。中国人が来ることで日本人の足が遠のくことを懸念して、日本人がよく足を運ぶ立派な私立病院などでは、中国人の対応を断っているところもあるくらいです」

 我妻さんも、親日と言われるタイにおいて、中国人の存在感が増せば増すほど、我々日本人にとっても少なからず影響が出てくると指摘する。

「プーケットなど地方の観光地などでも大勢の中国人観光客を目にします。バンコクは別ですが、アジア人=日本人という認識の強かった地方都市では、現在はアジア人=中国人というイメージが強くなっている」

 歓楽街に行けば、以前なら日本人と思われて気軽に話しかけられたのに、現在は中国人だと警戒されるのか、ほとんど見向きもされないのだそう。

「“優しい”“金払いがよい”などタイ人女性から人気だった日本人が少なくなり、“淡泊” “ケチる”などウケの悪い中国人が多くなったことで、夜の世界でも日本人の存在感は低下しています(笑い)。日本人がどういう国民性なのか知らないタイ人女性も増えてきているのでは」

 過熱する中国の影響力は意外なところにも飛び火しているようだ。

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【写真】タイ・バンコクにあるカオサン通り(我妻さん提供)。大学在学中に東京NSC5期生(同期にピースなど)となり2年間の芸人活動の後、フリーライターに転身したという我妻さん。29歳の時に初めて海外に出かけて以来、毎年アジア圏を訪問しているそう。その集大成として、『週末バックパッカー~ビジネス力を鍛える弾丸海外旅行のすすめ』(星海社)を上梓。

http://ji-sedai.jp/book/publication/backpacker.html