兵庫県議時代にカラ出張などで政務活動費約913万円を騙し取ったとして詐欺罪などに問われた野々村被告の仕切り直し初公判が1月26日、神戸地裁で開かれた。
「号泣会見が面白かったので本人を見たかった」(20代女性)などと80席の傍聴券に1000人以上が殺到した。
本来は昨年11月に予定されていた初公判。在宅起訴された同被告は「玄関を出たらマスコミと鉢合わせし、パニックになった」とドタキャン。裁判所はこれを「正当な理由ではない」として身柄拘束し、強制的に法廷に引き出す異例の「勾引」手続きをとった。
号泣会見のころ、ふさふさだった髪はスキンヘッドのようになり、黒いスーツに黒縁メガネ姿。四方に丁寧に頭を下げて着席。裁判長の人定質問後、「まず起立させてください」と立ち上がり、初公判の欠席を「深く反省しています」と謝罪した。
しかし、起訴内容が事実ならば、数多くの“政活費ちょろまかし”事案の中でも特筆すべき悪質さ。領収書を切り貼りしたり修正テープを使って偽造していたという。
同被告は「虚偽の申請で返還を免れようとしたことはございません」と起訴内容を否認。「調書は精神不安の中で警察が作文したもの」と全面対決の姿勢をみせた。
午後からの被告人質問に傍聴者は呆然とした。
「記憶を確認しますので、しばらくお待ちくださいますようお願いいたします」 などといちいち断り、「記憶にありません」「覚えておりません」と繰り返したからだ。
耳が悪いのか検察官のほうへ身体をよじって質問を聞く。戸谷嘉秀弁護士に「東京や福岡に行ったことがあるか」と聞かれると、まるで禅問答。
「行ったと言われれば行った気持ちになるし、行かなかったと言われれば行かなかった気持ちになる」
「領収書の管理場所は」「県議だった時期を思い出せますか」などの質問にも時間をたっぷり取ったあげく、「思い出せません」。
同弁護士は「県民に説明すべき責任があると思って質問しているんです」と業を煮やし、佐茂剛裁判長も「記憶がないのですか、それとも言いたくないのですか」とムッとしていた。
被告は法廷で「記憶障害の可能性があると診断された」と発言し、90回もの「記憶にない」「覚えていません」のオンパレード。にもかかわらず、診断日や取り調べ日時、取調官の姓名は明確に答え、図らずも記憶力のよさをみせた。
閉廷後、「帰りは弁護士の車かタクシー」とみた報道陣は高木甫主任弁護士の車をワッと取り囲んだ。しかし、野々村被告が乗っていたのは直後に出てきた神戸地検のワゴンと判明、カメラは郊外の神戸拘置所まで追いかけた。
次回公判で雲隠れの可能性を考えた裁判長が前代未聞の2か月勾留を命じたのだった。
11月の初公判に出て起訴内容を認めていれば、今ごろは「全額返還し、議員辞職して社会的制裁も受けている」などの理由で執行猶予付き判決を受けていたかもしれない。反省ゼロで全面対決しても「冤罪」が認められなければ実刑判決の可能性もある。
起訴前、検察に反省文を出していたが、この日「マスコミに疑惑をもたれたことを反省している」と軌道修正した。
実は野々村被告は筆者を神戸地検に脅迫罪で告訴している。昨年春『週刊女性』の取材で自宅玄関のチャイムを2回鳴らしたが出てこず、名刺を置いて帰った。
告訴理由は「名刺を見て放送局に追い回されたことがフラッシュバックした」という信じがたいものだった。取材の意図はメモ書きしており、脅すつもりなどない。神戸地検も検察審査会も不起訴を決めた。ほかにも複数の報道関係者を訴えいずれも不起訴に終わっている。
取材・文/ジャーナリスト粟野仁雄