【タイムリー連載・フィフィ姐さんの言いたい放題】21日、シンガーソングライター・冨田真由さんがライブ会場の前にて、ファンの男・岩埼友宏容疑者に首や胸など20か所以上をナイフで刺された。冨田さんは岩埼容疑者のTwitterへの執拗な書き込みなどを受け、警察にも相談をしていたが、事件を未然に防ぐことはできなかった。同じエンターテイメント業界に生きる者として、フィフィは自分たちが置かれている現在の危惧すべき状況について言及する。
リスクを回避するために……冨田さんに落ち度はなかった
凄惨な事件が起こってしまいました。岩埼容疑者はTwitterで冨田さんに対し執拗な書き込みをしており、冨田さんは警察にも相談していたようです。
実は私も、Twitterを通して嫌がらせを受けることは多く、ときには警察から事務所に、インターネット掲示板に危険な書き込みがあったようなので被害届を出しますかと話がきたこともありました。3年ほど前の話ですけどね、いわゆる殺害予告です。
SNSというのは、実際に会っていなくても、相手と距離が近い状態にあるのだと錯覚させてしまうものです。こちら側が単純にブロックをすればそれで済む話というものではありません。相手を逆上させてしまう場合もある。
私もTwitter上で見知らぬ方と意見を言い合うこともありますが、なかにはそれだけで私のことをとても近い存在だと思っていらっしゃる方も少なからず存在します。そのため、リスクを回避するために、たとえば自分の本を出版した際にも、サイン会や握手会といったイベントの類いのものは一切やっていません。誰だからわからない人と接触するのは、それほどまでにリスクが高いことなんです。
リスクが高い分、セキュリティは強化しなければなりません。しかし、トップアイドルやスター、政治家などでない限り、それにも限度があります。とくに、今回被害を受けてしまったシンガーソングライターの冨田さんや、地下アイドルといった、エンターテイメント業界においてまだマイナーな部類に属する表現者たちにとって、リスクに見合った警護をつけてもらうことは不可能です。
それが自らわかっていたからこそ、身を守る手段として冨田さんは警察に相談されていたのでしょう。そうした点でも、今回の事件において彼女の側に落ち度はなかったと思います。
疑似恋愛に持ち込むという商法のリスクの大きさ
リスクの割にセキュリティが甘く、きちんと守ってもらえないという点は、今や飽和状態にある地下アイドルたちにも言えることです。まして地下アイドルたちは、ファンを獲得するために、笑顔を愛想良く振りまきながら自分でグッズやチケットを売り、なかにはCDの付加価値としてランチやデート、温泉旅行をファンの方と行うといったことまでしなければなりません。
ファンを獲得するために、男の人の恋心をくすぐり、疑似恋愛に持ち込むという商法が当たり前になってしまった昨今、それによって生じるリスクに見合った十分な対価がもらえず、セキュリティを整えることのできない彼女たちは非常に危険な状態にあります。
付加価値をつけなくとも、ファンを獲得することができる。本来は、それでこそスターです。
冨田さんが早く回復してくれることを願うと同時に、同じエンターテイメント業界に携わる者は、程度の差こそあれリスクの高い状態にあるのだということを今一度認識すると同時に、そのあり方についても考え直す必要があるのではないでしょうか。
《構成・文/岸沙織》