小規模の、通所・短期入所介護などを行うデイサービスや訪問看護からつぶれ始めている。そこへ追い打ちをかけたのが'15年4月からの介護保険法改正だ。
介護保険では、介護を必要とする程度の区分を軽度なものから要支援1・2、要介護1~5と認定している。
このうち要支援1・2の訪問介護、通所介護が介護保険サービスからはずされ、'17年までに市町村が行う『介護予防・日常生活支援総合事業』(総合事業)という新制度に段階的に移行される。
要支援1・2を介護保険からはずし市町村へ移す総合事業は「施設から在宅へ」という社会保険制度改革の流れを受けたものだ。住み慣れた地域で安心して最期まで暮らすという理念自体は素晴らしい。問題は、それが実現可能かどうか。
介護福祉ジャーナリストの田中元さんは断言する。
「国は、地域の多様な資源を使って要介護の人を支えると言っていますが、介護サービスの資源そのものが絶対的に不足しています。
それに地域といっても事情はさまざま。例えば、人口がどんどん減少する地方の介護サービス資源は少なくなり、若い介護職は仕事を求めて、都市部へ移動する。かたや都市部では団塊世代が一気に高齢化。需要が供給に追いつかない」
これを解消するのに、国は高齢者にも“活躍”してもらおうと提案するが、
「今の高齢者は所得格差が広がり、年金が減ることを想定して働き続ける人が多い。地域で他人の面倒をみている余裕なんてありませんよ」(田中さん)
'15年の介護保険法改正に伴い、介護保険の利用者負担が年金収入280万円以上、所得160万円以上を条件に、1割から2割に引き上げられた。田中さんによれば、すでにデイサービスや訪問介護の回数を減らす動きも顕著だという。
どこにも受け皿がなければ家族がみるしかない。かくして介護を理由に、年間10万人以上が職場を去っていく。その8割が女性だ。
安倍政権は'20年初頭までに、特別養護老人ホームなど12万人分の介護施設を追加整備、50万人の受け皿を作るとして“介護離職ゼロ”をぶち上げる。これに田中さんは「言っていることと、やっていることがバラバラ」とバッサリ。
「施設などのハコモノを作っても、そこで働く人が集まらない。介護職員の低賃金という事情もありますが、認知症の人の増加や、病院から在宅までの期間が短くなるなかで、介護に手間のかかる状態の人が増えたことも大きい。一方で、介護職員は減っているから当然、1人あたりにかかる負担は重くなる。特に中間管理職の疲弊が激しい」(田中さん)
新人が入ってきても、じっくりと教育する余裕が今の介護現場にはない。
「本来であれば、知識を持って経験を積んで患者を落ち着かせるという手順があるはずですが、感情と感情のぶつかり合いになって対応できず、ストレスがたまる。すると給料に見合うのかなという疑問が出てくるし、よほど志が高くない限り辞めますよ。人手不足の悪循環に陥っていく」(田中さん)
恐ろしい事態は続く。
「厚生労働省は要介護2以下の人を“軽度者”として介護保険サービスの対象から一部を除外したり、地域支援事業に移行させたりする施策を進めようとしています。
そもそも認知症の専門医は少ないうえ、要介護認定が適正に行われているかどうかの問題がある。要介護1より軽い要支援であっても、認知症で日常生活自立度(記憶障害などで日常生活に支障が出る程度)が重い人たちも含まれているからです」(田中さん)