神奈川県のJR相模湖駅周辺でも、これまで確認されたことがないクマが最近、人間の生活圏に出没した。
「5月28日の夜9時8分。業務を終えて店内でテレビを見始めたところだったんです」
そう話し始めるのは、クマに襲撃された飲食店「ラーメンセンター」の齋藤雄治店長。
「突然、“ドカーン!”と低い爆音が響いたのと同時に、黒い影が猛スピードでガラスの自動ドアに突っ込んできたんです。見た瞬間、クマだと。1年前に強化ガラスにしたことで、衝撃に耐えられたのだと思います。もし中に入ってきていたら……恐怖ですね。大の大人でも一瞬で“殺られる”と悟りましたよ」
すぐに警察に通報した。翌日、行政はクマが出た前例がないのでクマではないと判断。1時間後、付近でクマの足跡が見つかり認定された。
以降、一帯ではクマの目撃情報が相次いだ。パトカーや猟友会の車などが通学路を見守り、近くの小学校は「登校班ごとに職員が付き添っています」と教頭。〈クマ出没注意〉という看板も設置された。
■人間を見て怖がるクマが減っている
ここまでの事例に登場するのはすべてツキノワグマ。九州では絶滅したが、絶滅が危惧されている中国・四国地方を含め本州に生息している。
「本来の食べ物は植物質の果実や葉など」(小池准教授)
北海道に生息するヒグマに比べ小柄。臆病でおとなしいと見られているが、なぜ昨今、“人食い熊”と呼ばれるほど凶暴化しているのか。
あきた森づくり活動サポートセンターの菅原徳蔵所長は、野性の生態についてこう話す。
「太い馬の首を一撃でへし折ることもできる、強力な爪が凶器です。足は速く100mを9秒。猟師も駆除は命がけ」
今、野生のまま、人間の生活圏へ出没し、ゴミを漁り、人家に侵入し食料を食べたりするようになっている理由は?
「人間の後退により野生動物が攻めてきています。かつて人間が自然に踏み込み開発を進めたのと逆の現象が起きてるんです。今後もクマの勢力拡大が進む恐れがあります」(菅原所長)
ツキノワグマの逆襲はすでに始まり、加速している。
「昨年は全国的にどんぐりが豊作で、メスグマが栄養をつけベビーブームになりました。今年は親子連れが増えており、母グマは子グマを守るため周囲を攻撃する危険性が高いです。猟師が20年で4割も減少し駆除の機会が減りました。
人間を怖いと感じるクマが減る要因となるでしょう。山村の衰退や廃村化が進み、そこがクマの生息圏に取って代わられつつある」(菅原所長)
このままクマの逆襲が続けばクマと人が遭遇する危険性は、ますます高まるばかりだ。万が一クマに遭遇したらどうすればいいのだろうか?
「静かにクマを見たまま少しずつ後ずさりする。背中を向け急いで逃げたり、大声を上げたり、死んだふりをするのはダメ」(プロ・ナチュラリストの佐々木さん)