それなのに契約社員は手取りが月12万~13万円台にすぎず、正社員はその3倍は稼ぐ。さらに契約社員にも「A」と「B」という区分があり、後呂さんは自分がBであることを入社後に知る。Aには正社員と同じ、1週間の有給忌引き休暇や月7400円の食事補助券などの福利厚生がある。Bには何もなかった。

 是正しなければ。後呂さんの職場の先輩でもあったKさんは、当時の約90店舗を回り一緒に闘おうと訴えた。仲間が集まり、労働環境の是正、特に賃金格差をなくすために相談に向かったのが、日本でもっとも多くの労働相談が寄せられる「全国一般東京東部労働組合」(以下、東部労組)だ。

 東部労組は1人でも非正規労働者でも加入できる組合で、労働問題を自ら解決しようと動く人には団体交渉や裁判などの支援を惜しまない。対応したのは須田光照書記長だった。

 契約社員Bの女性の労働環境を知り、須田さんは現実を痛感した。

「家計の補助ではなく、月13万円で大黒柱として家族を支える女性もいる。買い物はスーパーの閉店間際の値引きタイムですませ、新しい服も3年も買わない。その人たちが必死に闘おうとしている」

 こうして'09年3月、東部労組内に「メトロコマース支部」が結成される。当初のメンバーは後呂さんも入れわずか4人(現在6人)。

 東部労組の基本方針は、おんぶに抱っこではなく、自ら立ち上がる人への後方支援だ。だから、コマース支部と会社との団体交渉には必ず東部労組の須田さんやほかの職員も同席する。

「たった4人で始めた闘いです。でも会社は相当に慌てたようです」(須田さん)

 団交の結果は現れた。例えば、会社は、それまでの時給1000円を年10円ずつ上げると約束(後呂さんの時給は現在1070円になった)。有給忌引き休暇や食事補助券も得られるようになり、イスのなかった売店にイスが設置されるようになった。

 だが根本解決にはほど遠い。同一賃金同一労働以前に、メトロコマースでは、65歳になるとそれ以上の契約更改をしない雇い止めが待っている。貯金もできない現状に加え、数千万円を手にできる正社員と違い退職金はゼロ。どうして生きていけようか。

 '13年3月18日。やがて雇い止めされるS組合員の雇用継続を訴え、コマース支部はストライキを決行した。「怖かった」と後呂さんは振り返る。

「決行前夜は、“私、クビになるのかな”と不安で眠れませんでした」

 だが翌日、いざストを実行し、アピールのために本社前に移動すると、130人も支援者が集まっていた。「本当にうれしかった」。さらに、ストを通してS組合員の雇用継続を勝ち取ることもできたのだ。