「下がってください!」
駅員が叫んだアナウンスは届かなかった。非常停止ボタンも間に合わなかった。
東京メトロ銀座線の青山一丁目駅で15日午後5時45分ごろ、盲導犬を連れた東京都世田谷区の会社員・品田直人さん(55)がホームから転落し、渋谷行き電車に轢かれて死亡した。転落を防ぐホームドアは設置されていなかった。警視庁赤坂署は事故原因などを詳しく調べている。
近隣住民らの話によると、品田さんは今年3月、北海道江別市から妻と子ども4人の家族6人で引っ越してきた。10数年前に目の病気を患い、日中の明るい時間以外はほとんど見えないことなどを周囲に話していたという。
「愛犬の名前はワッフル。毎朝、一緒に出勤していた。どうしてこんなことになってしまったのか」(近所の住民)
品田さんは高校の数学教師を経て、'06年から江別市の元野幌めぐみ幼稚園で約2年半、園長を務めた。同園の小原愛香園長(43)は「温和でまっすぐな人でした」と話す。
「視野が狭くて真下が見えないため、園児の前でトイレットペーパーの芯を目にあて“先生はこのくらいしか見えないんだ。もし、ぶつかってもわざとじゃないから許してね”と話していました。一生懸命で、熱心で、人の痛みがわかる先生でした」(小原園長)
盲導犬にも介助しようがない場面はたくさんある
北海道盲導犬協会によると、ワッフル号はラブラドールレトリバーの4歳メス。品田さんには2頭目の盲導犬で'14年5月から貸与されていた。
転落現場付近のホームの幅は約3メートルと狭く、支柱が点字ブロックに食い込んでいる(写真参照)。右手でワッフル号のハーネスをつかんでいた品田さんが線路側を歩き、徐々に左にずれて柱の手前約5メートルで線路に転落した。ワッフル号はホームに残って無事だった。
全日本視覚障害者協議会の山城完治理事(60)は事故後の18日、現場を歩いた。
「点字ブロック上に柱があるということは、柱にぶつかるように誘導しているのと同じ。激突を避けるために点字ブロックを離れれば、進行方向を間違えるおそれがある。ホームドアを1日も早く設置してほしい」(山城氏)
視覚障害者は自分の立ち位置やどの方向を向いているかを把握するのが難しいという。
「盲導犬を連れていても車にぶつかることがある。犬にも介助しようがない場面はたくさんある。周囲の人は“盲導犬を連れているから大丈夫だろう”などと勝手に解釈せず、積極的に声をかけてほしい」(山城氏)