福島の事故から5年8カ月を経過した日本でもチェルノブイリの教訓は、今後考えられる甲状腺がんの患者の大幅な増加に備え、検診や治療体制の拡充を即急に図ることにある。

母たちに衝撃!検査縮小の動き

 ところが今年9月、福島県の小児科医会や福島県で、検査体制を縮小したいという動きが出てきた。理由は、検査を現状のまま続ければ「子どもや保護者に不安が広がる」という。

 福島県郡山市に住む、0歳児と3歳児の子を持つ2児の母、滝田春奈さんは、「私の子どもたちは事故後に生まれているので、これまで検査の対象になっていませんが、検査してもらいたいと考えていました。検査して何もないことがわかれば不安が晴れます。不安だからこそ、検査体制を拡充してもらいたいと思います」と心情を話す。

 この甲状腺がんの診断をボランティアで行ってきた仙台市の寺澤政彦医師は、「診断の日は1日50人を限度にしている。それ以上だと疲れ果て、次の日に仕事にならない」という。そうした自身の経験から、福島県立医大が行ってきた数十万人にのぼる検査も「精神的にも肉体的にも大変だと思う」としたうえで、縮小論に対しては批判的だ。

ベラルーシでも4年後から甲状腺がんが出てきている。甲状腺がんの検診をやめたり、縮小したりするというのはとんでもない乱暴な提案。甲状腺に限らず、心血管系、筋・関節系、血液・免疫系などの検診を年齢、地域を拡大して実施する必要があり、ひとつの大学や県に任せておける検査ではありません」

 前出・山本太郎議員も、縮小論は「正気の沙汰ではない。真逆の提案だ」とし、「これ以上の継続や検査拡大は(被ばくによる)影響がハッキリするので、不都合なのです。福島県以外の広い地域にわたり、福島県と同等の調査をすることが必要です」と国の役割を求めている。

 福島第一原発事故は日本政府の国策のもとに「絶対安全」という原発の安全神話が破られ、そして今、原発事故の被害は、どれをとっても惨憺(さんたん)たるものである。環境汚染や被ばくによる疾病、避難者への対応を間違えば被害はさらに拡大し、人々に重くのしかかる。

 いま東京電力や国がやっているのは、被害を極力少なく見せようという、その場しのぎの対応に過ぎない。水俣病をはじめとする公害問題で、日本の行政は事業者側に立ち、被害を拡大してきた。その誤りを再び繰り返すことは許されない。

 縮小論の背後には、被ばく被害が注目されれば「東京オリンピック開催に支障をきたす」から、これを避けたい。そのような思惑があるのではないか。そう筆者は感じる。

<プロフィール>
取材・文/青木 泰
環境ジャーナリスト。民間の技術研究所を経て環境NPOの幹事。廃棄物資源循環学会会員。市民活動の現場から情報発信を行う。近著に『引き裂かれた「絆」―がれきトリック、環境省との攻防1000日』(鹿砦社)