在宅介護者の4人に1人が「うつ状態」
周囲に愚痴をこぼすことがなかった一明容疑者だが、
「トイレの排水が壊れて、近所に迷惑がかかった、と犯行動機のひとつとして供述しています」(捜査関係者)
介護問題に詳しい日本ケアマネジメント学会の服部万里子副理事長に話を聞いた。
「介護で問題のひとつとなるのは、排泄です。紙を大量に使ってトイレを詰まらせたり、尿漏れパッドを流して詰まらせてしまうことがあります。修理が来るまでトイレは使えなくなるから、わざわざ外まで行かないといけない。さらには近隣からもニオイの苦情が来ることもある。これって相当なストレスですよね」
排泄ばかりではなく、食事を用意して食べさせる、入浴、着替え、洗濯……ひと息ついたらまた食事、そして排泄……と果てしない介護の循環。服部副理事長は、ここから犯行に至る心理を読み解く。
「介護をすると目の前の生活のことにいっぱいいっぱいで、どんどん視野が狭くなり、追い詰められていくんです。そんな極限のストレスのときに、普段は何でもないようなことがきっかけになってしまうことがあるんです」
追い詰められた介護者が陥ることが多い「うつ状態」。
'05 年に厚生労働省研究班が行った調査では、在宅介護者の4人に1人が「うつ状態」という結果がある。
「担当しているケアマネは介護者の様子がおかしいと思ったら、こちらから聞き取りをしてあげることも大切です。男性は特に人に相談することが難しい。おかしいと思ったら一歩踏み込んでほしい」
と服部副理事長。そして、ケアマネージャーも責任を感じているのでは、と続ける。
「こういう事件があると、担当するケアマネは仕事を続けられなくなることが多いんです。誰が悪いというわけではない。だからこそ、みんなで力を合わせていくことが必要なんです」