2016年年末。埼玉県最大の繁華街大宮は、家族連れやカップル、冬休み中の学生たちでにぎわう。お母さんたちは正月用の食材やお飾りを抱え、子供たちは師走の喧噪に浮足立つ。駅前で市内のNPOが運営する「無料低額宿泊所」で生活する西野菜緒子さん(45歳、仮名)と待ち合わせた。
西野さんはダウンコートを羽織り、スマホ所持、カバンの中には化粧品と人気作家の文庫本があった。家族を連れたお母さんたちと、何も変わらない普通の女性だ。
「今、住むのは家のない人のための寮です。ほぼ全員が生活保護を受けています。生活保護なので文句を言える立場ではないけど、男女一緒とか、シラミまみれで不衛生とか、生活環境は悪い。それに何かしら問題がある人が集まっているので、突然奇声が聞こえたり、暴れたりみたいなことはある」
無料低額宿泊所は、生活困難者のための無料または低額な料金で宿泊ができる第二種社会福祉施設。西野さんはちょうど1年前の昨年1月から生活保護を受給し、ソーシャルワーカーの勧めで現在の宿泊所で暮らす。寮には精神疾患を抱える者や身寄りのない認知症高齢者など、問題を抱える人が多く、互助のような状態からはほど遠い。
さらに利用料はけっして安価ではない。生活保護費から施設利用料月4万2000円、食費2万8000円、水道光熱費1万円、管理共益費5000円、合わせて月8万5000円を運営する法人に支払う。月に使えるおカネは2万円ほどだ。
ファッションビルの女子トイレで服毒自殺
「お正月が明けた10日前後だったかな。私、あそこで自殺しました。本当に迷惑な話だけど、真剣に死のうと思って、女子トイレで服毒です。まあ、死ねなかったから、今ここにいるのですけど」
指の先には若者向けのファッションビル。女子トイレで服毒して酩酊状態で大宮駅周辺を歩き、救急車で運ばれ、3日後に意識を取り戻したという。いったい何があったのか。喫茶店に移動すると、彼女の身に起こった絶望的な話が始まった。ちょうど1年前の出来事だ。