韓国では住民登録番号の流出で大混乱が 

 これに対し『共通番号いらないネット』代表世話人の白石孝さんは、議論をすべきと主張する。

「本当に私たちの預貯金に適用するのなら、税制議論にかけるべきです。ゆくゆく資産課税にも使われるとすれば、もはやそれは独裁国家にすぎないのです」

 徐々に適用範囲を広げようとするマイナンバー。それはどんな社会なのか。

 白石さんは年に数回、韓国を訪れ、労働問題や社会問題を視察するが、個人番号が当初の行政分野から民間分野にも開放されたことで、社会状況が「めちゃくちゃ」になったと語る。

「’62年から『住民登録番号』という個人番号がある韓国では、’07年から’15年までで2億数千万件もの不正アクセスと情報流出が発生。クレジットカードも住民登録番号で一元化され、’14年には、クレジット会社や銀行口座関連の個人情報が1億400万件も流出、預金の無事を確認しようと顧客が銀行に殺到したんです」

 また朴槿恵前大統領を糾弾する集会所近くの携帯電話基地周辺に警察が捜査本部を置き、基地を経由する携帯電話の電波から、その電話番号と持ち主、さらに個人番号を把握していたという。まさに監視社会だ。

 だが、そんな状況になっても、韓国では住民登録番号をなくそうとの動きがない。預貯金だけではなく、航空券やホテルの予約にも個人番号使用が当たり前になったため、元に戻しようがないからだ。

 日本もそこまでいくのか。

「私は、オーストラリアのように、納税や年金の手続きに限定した番号制度なら全面反対はしません。日本のマイナンバーはまだ過渡期。この過渡期のあと、どう運用されるかが問題です」(白石さん)

 前出のマイナンバーカード利活用推進ロードマップが「東京オリンピックでの入場管理」と謳うように、国は、2020年東京オリンピックでのテロ対策を大義名分に、それまでに8700万枚の個人番号カードの配布を目論んでいる。

 ひとつだけ言えるのは、市民が声をあげなければマイナンバーは今後、市民社会の監視ツールとして機能する可能性があることだ。

 見直すとすれば、本格運用前の今しかない。

<取材・文/樫田秀樹>
ジャーナリスト。’89年より執筆活動を開始。国内外の社会問題についての取材を精力的に続けている。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)が第58回日本ジャーナリスト会議賞を受賞