「2年間、月2回の面会交流を続けてきました。ファミレスで2人で会うんですが、1時間の面会中はほぼ無言で、私と一切目を合わせません」
そう静かに語るのは、吉田裕子さん(仮名)。息子は今年で17歳になる。
「つらかった。同居していたころの無邪気に笑う息子はどこにいったんだろうって。でも会わなくなると、息子にやっぱり見捨てたな、と思われるのだけは嫌だったんです」
'00年に授かり婚。直後に金銭感覚のズレが露見した。
「渡されるのは生活費の5万円だけ。給与明細を見せてと言っても、見せる必要がないの一点張り。ケンカを子どもに見せたくなかったので、ずっと我慢しました」
息子は小学校を卒業するころから頻繁に夫の実家に行くようになった。今にして思えば「すでに私からの引き離しが始まっていたんです」。夫とその両親が新興宗教に入信しており、小学校を卒業する息子に「俺か母さんかどっちを選ぶんだ。母さんにつくなら俺はお前と縁を切る」と迫っていたことを後日、涙ながらに語る息子の口から知った。
どっちも選べないよ
息子の中学入学後、夫が実家に戻り、引き止めたが息子もそのあとを追った。
夫が離婚調停を申し立て、対抗する形で吉田さんは面会交流調停を申し立てる。
周囲の友人などに“お父さんお母さんどっちも選べないよ”と漏らしていたという息子も、父親との暮らしが長くなるにつれ、面会で一切反応をしないように変わったという。片親疎外症候群が始まった、と吉田さんは見ていた。
小田切教授によれば、
「簡単にいえば洗脳ですね。同居親は別居親に絶対に渡したくないわけです。別居親がどんなに悪い人間か、子どもに毎日のように吹き込んで支配していきます」
今年3月、上告棄却で離婚が確定、親権は父親が得た。
4月11日に面会をした息子は、次回と次々回の面会を休みたいと吉田さんに伝えた。
「連絡用にメールアドレスを教えてくれました。ただ、連絡をしても返事はありません。このまま連絡がとれなければもう会うことはできなくなるかもしれません。いつか息子の目が覚めてくれたら……」
取材中、気丈に振る舞っていた吉田さんの目にはうっすらと涙が浮かんでいた。