彼が川越さんの死を知ったのは、大田区の福祉関係の部署から「亡くなったので犬を引き取ってほしい」と連絡が来たからだという。
「でも、数日後に区の担当者から“鹿児島の実家と連絡がつき、あちらが犬も含めいっさいやるそうです”と言われました。家族が出てきてパッと持っていかれ、僕は最期のお別れができなかったんです。
お父さんとは電話で話しているところは見ましたが、姉妹とは何十年も交流がないって言ってましたよ。いきなりピシャッとカーテンを閉められてしまった感じで、やるせなさと悔しさをずっと感じたままなんです」(城野氏)
川越さんは実家があった鹿児島県錦江町にあるお墓に静かに眠っている。享年35歳と書かれた墓碑銘が寂しさをより一層、かき立てる。
「葬儀はやらず、親族だけで四十九日だけやったって聞いてます。
美和ちゃんが亡くなった3年後に父親も亡くなり、母親は長野県に嫁いだ彼女の姉さんのところに住んでますよ。妹さんも嫁いで出てしまったし、実家は空き家になっていて売りに出しているそうですよ」(実家の近隣住民)
すでに、川越さんの実家は解体が進んでおり、在りし日の面影はない。そこで、近所に住む叔父さん宅を訪ねたが、
「何も話せないよ。美和の妹がいるから、聞いてみてよ」
と鹿児島県内に住む彼女の妹さんに電話をしてくれたが、
「いまさら話すことは何もありません」
と、にべもなく断られてしまった。
「大田区に引っ越したとき、彼女は“ここから裸一貫、イチから頑張ってみる”って話してくれてたんです。そんな矢先に亡くなって、無念だったと思いますよ」(城野氏)
お墓からは、彼女が小さいころから見て育った美しい錦江湾が眺められる。波の音を聞きながら、彼女は安らかに眠っている……合掌。