「逆襲」「反撃」「大復活」……ファンにそう称えられる、日本初のバーガーチェーンの勢いが止まらない。独自路線をひた走り、創業50年にしてヒットを連発している。仕掛け人は、ユニークな経歴を持つ女性経営者。「政治家の妻」から「SHIBUYA109のショップ店長」「居酒屋オーナー」まで、介護と二足のわらじをはきながら突き進んできた挑戦人生は、今なお続く。訪れた人を幸せに、驚きと喜びを味わってほしいから──。
観光客の少ない時期に、なぜ浅草に出店?
猛暑もおさまり、過ごしやすい気候に恵まれた9月19日のシルバーウイーク初日。少し賑わいを取り戻しつつあった東京・浅草で、朝から3密を避けながらの行列ができていた。観光名所・花やしきにドムドムハンバーガーの新店舗がオープンするからだ。
「いらっしゃいませ!」
10時の開店時に陣頭指揮をとっていたのは、社長の藤崎忍さん(54)。2018年からトップに就任し、多彩なアイデアを出しながら収益を向上させ、新型コロナウイルスのダメージも乗り越えてきた女性経営者だ。
「“観光客の少ないこの時期に、なぜ浅草に出店するのか?”と疑問を抱く方もおられたと思います。でも、浅草の復興は日本の観光業はもちろんのこと、人々を活気づける意味ですごく重要ですし、社会的意義も大きい。会社として少しでも貢献できることをしたいと考え、2年ぶりの出店を決めました」
うれしそうに話す彼女は開店当日、勝負服のドムドム柄衣装を身にまとい、店頭に立った。浅草店限定の「黒毛和牛バーガー」(350円)や「ビッグドムてりやきバーガー」(450円)などが飛ぶように売れるなか、「いかがですか?」「新店舗、よろしくお願いします」と、声をかけながら接客に当たった。列の後ろで待つ人には「申し訳ありません」「大丈夫ですか?」と気を配り、ときにチラシも配布する。
精力的な動きぶりに、部下である営業企画部長、浅田裕介さん(45)は感心させられたという。
「自分自身も一生懸命に働き、周りも気持ちよく働かせてしまう、社長にピッタリな方。就任を聞かされたときも納得しましたね。誰もが信頼してついていきたくなる上司だと思います」
この敏腕社長が実は37歳まで主婦だったという事実には、誰もが驚かされるだろう。
短大卒業後、地方政治家の夫を支え、ひとり息子を育てていた藤崎さんだが、夫が病に倒れたことで一念発起。SHIBUYA109のアパレルショップ店長を経て、居酒屋店主に転身。ドムドムハンバーガーにヘッドハントされ、1年もたたないうちに社長に担ぎ上げられるという驚きの人生を送ってきたのだ。
「私の場合は事情が事情ですから、とにかくやるしかなかったんです」
そう笑顔を見せる藤崎さんだが、ここまでの道のりは並たいていのものではなかった。持ち前の明るさとエネルギーで力強く生き抜いてきた激動の54年間とは一体、どのようなものだったのか。