山梨県のキャンプ場で、当時小学1年生だった小倉美咲ちゃんが行方不明になって約1年5か月。母・とも子さんを自身のブログで誹謗中傷したなどとして、名誉毀損の容疑で昨年逮捕された野上幸雄被告。逮捕前から被告への取材を続けてきたノンフィクションライター・水谷竹秀氏が初公判の模様を伝える。また、水谷氏にかかってきた脅迫電話の音声も初公開。(情報提供:https://misakiogura.com/

 静まり返った法廷内に、証言台に立つ男の荒っぽい声が響き渡った。

「はっきり言ってねえ、小倉とも子が犯人じゃないっていう証拠がない」

 その瞬間、傍聴席の最前列に座っていた、スーツ姿の小倉とも子さん(37)は眉をひそめた。

 これは検察官による起訴状の朗読後、被告人に対して行われた罪状認否の場面での出来事だ。

名誉毀損とは
これっぽっちも思っていない

 男の証言に面食らった向井香津子裁判長が「ええっとですね」と制しようとするも、男は無視して続けた。

「はっきり言って分かんないんですよ。それを追及したらたまたまこういうことになったんだけど、これ(起訴状)ねえ、インターネットで意味のない感想文をだらだらと書いてるけど、1番肝心なものが抜けているでしょ?」

 男は身振り手振りで、裁判長に訴えかける。耐えかねた裁判長から、

「先ほど読まれた起訴状の内容は名誉毀損に当たらないということでいいんですよね?」

 と問われてもなお、男は曖昧な答えを繰り返す。

「だから、それはねぇ、わかんないの」

 弁護士からも「簡潔でいいですよ」と突っ込まれ、男はようやく本題に入った。

「名誉毀損とはこれっぽっちも思っていないよ。(起訴状は)全然チンプンカンプンなことを言っている」

 2月25日午後、千葉地裁第701号法廷。

 初公判で起訴内容を否認した男は着席し、腕を組んだ。マスクの上から見える目は鋭く、薄い眉が、どこか威圧感を与えている。

 この男の名前は、野上幸雄被告 (70)。山梨県のキャンプ場で2019年9月、行方不明になった小倉美咲ちゃん(8)の母・とも子さんを自身のブログで誹謗中傷したなどとして、名誉毀損の容疑で昨年10月、逮捕されていた。

 起訴状などによると、野上被告は、『怨霊の憑依』と呼ばれるブログを管理し、事件発生直後から毎日、とも子さんへの憶測や偏見を生み出す書き込みを続けていた。

 ブログの管理人名は野上ではなく、「和田隆二」。肩書きは「霊媒師」。

 野上被告はこのブログの中で、美咲ちゃんの行方不明について、

《募金詐欺、美咲ちゃんの事件はかなり組織だってやっているそうです》(2020年2月13日付)

《今までの流れで親が関与し人身売買、臓器売買が真相だろう》(2020年10月3日付)

 などと説明し、とも子さんの名誉を毀損した。