病は突然訪れる。それは芸能人も同じこと。励まし合い、助け合いながら病気を乗り越えたとき夫婦にはさらに強い絆が生まれる。「つらく苦しい闘病生活はお互いがいたからこそ頑張れた」そう語る桂菊丸・泉アキ夫妻に当時を振り返ってもらった。
47歳のある日、アキさんは乳がんになった夢を見た。
まさかの“正夢”に茫然自失
「がんになるなんて考えたこともありませんでした。がんになった夢を見て、自分で胸をまさぐりながら目が覚めたんです。それで急いでかかりつけの病院に検査を受けに行ったら……がんの宣告を受けました」
真っ先に頭に浮かんだのは“死”。がんになったら、助かる確率は低いというのがまだ常識だった時代。いったいどうしたらいいのか。
夫にどう話そうかと思い悩みながら、ぼんやりと外の松の木を眺めていると、目に入ったのが、上へ上へと向かっていく尺取り虫だった。
「いつもは、パシッと駆除してしまう尺取り虫なんだけど、ふっと思ったんです。もしかしたら、すぐに殺されてしまうかもしれないのに、今は上に向かっているんだなって。
私も同じこと。先のことはわからないけれど、今は生きているんだから、くよくよ考えずに、頑張ればいいんだって」
がんになったのが夫でなく、私でよかったと思う
心が決まったアキさんは、庭で日なたぼっこしながらコーヒーを飲んでいた菊丸さんに、自分が乳がんであることを告げた。
「まるで時間が止まってしまったように、茫然とした様子で私を見ていました」
菊丸さんのショックの深さに、アキさんのほうが驚いたそう。
すぐに受けた手術が成功し回復したアキさんに、菊丸さんは「がんになったのがアキでよかった。アキなら頑張れる、自分だったら負けてしまっただろう」と言った。
「“自分でなくてよかった”なんて、ひどい言葉だけれど、本当に私でよかったと思うのよ」と笑うアキさんの声は、底抜けに明るい。