「やりたいことをやらなあかん」一念発起して映画を撮り始めてから10年。自主映画として『カメラを止めるな!』以来の大ヒットを記録し、ヒットメーカーの仲間入りを果たした「遅咲きの新人監督」の素顔とは?
その年、最も優れた新人監督に贈られる新藤兼人賞。2024年、その銀賞に57歳で選ばれたのは、安田淳一監督だ。
本作『侍タイムスリッパー』の舞台は幕末の京都。会津藩士・高坂新左衛門(山口馬木也)が密命を帯び長州藩士・風見恭一郎(冨家ノリマサ)と刃を交えた刹那、雷鳴とどろき新左衛門が現代の撮影所にタイムスリップ。斬られ役として生きていく見どころ満載のコメディー時代劇だ。
予算も限られた自主制作の時代劇。ところが思わぬ大ヒットを記録する。'24年8月17日に池袋シネマ・ロサ1館のみで公開されるや、
「笑えて泣ける傑作」
「エンドロールを待ちきれずに拍手が起きた」
など熱いコメントが殺到。SNSで拡散され評判が評判を呼び、大手配給会社『ギャガ』が加わり、松竹系・東宝系のシネコンでも上映されると10月には観客動員ランキングでトップ10入り。興行収入でも8億円を突破している。
「今作の制作費は、時代劇にもかかわらず、わずか2600万円と激安。自主映画の大ヒットといえば、'17年に公開され、興行収入31億円を突破した『カメラを止めるな!』以来の快挙です」
インディーズ映画に詳しい映画評論家の島右近氏はそう語る。しかし自主制作なのに、なぜ安田監督はお金がかかる時代劇を作ろうと決心したのか。
役所広司のCMと深作欣二監督の名作がヒントに
「時代劇、歴史劇ジャンルの映画企画コンテスト『京都映画企画市』に応募してみないか。そういったお誘いがあり、その時ふと頭に浮かんだのが役所広司さんが現代にタイムスリップする宝くじのCM。それがヒントになって今作が生まれました」(安田監督、以下同)
だが「侍×タイムスリップ」だけでは、ドタバタコメディーで終わってしまい、それだけでは2時間もたない。
「そこで思い出したのが、同じ撮影所を舞台にした深作欣二監督の名作『蒲田行進曲』。“階段落ち”に匹敵する山場をどうしようかと思いついたのが、真剣を使った殺陣で勝負するというものでした」