横浜市に住む15歳の無職少年が、東京・浅草の三社祭で小型の無人機「ドローン」を飛ばすことをほのめかす動画をインターネット上に投稿したとして5月21日、威力業務妨害の疑いで警視庁に逮捕された。
少年は自分で撮影した動画を生配信(中継)できる複数のサイトを利用。外出時にはパソコンを持って、周囲に許可を得ず生配信していた。逮捕案件以外にもトラブルを起こし、その都度、警察当局がたしなめていた。
無職の少年の背後には「囲い」と呼ばれる人たちの存在がある。
「囲い」とは、インターネットの生配信番組の熱狂的なリスナーを示す。気に入った投稿者に対して“投げ銭”と呼ばれるシステムなどで支援。もらった“投げ銭”のポイントはギフト券と交換できるので、金銭援助に等しい。
■“キレ芸”を面白がるリスナーたち
生配信には、自宅で日常の出来事を話すだけのものがある。30代のひきこもり男性が愚痴をこぼす。あるいは50代の無職男性が酒を飲みながら独り言をつぶやく。そんな大人にもリスナーは集まる。
しかし、つまらない話や、味のない投稿者にリスナーはついてこない。手っ取り早く注目を集めたいのか、警察官とケンカしたり、違法行為の場面を流す投稿者がいる。
少年はこうしたユーザーたちのコピーでもある。
少年は生配信で、母親や妹との口ゲンカを流し続けたことがあった。家族で罵り合い、そして少年がキレる。
「俺は、これ(生配信)しか、イキがれないんだよ」
「なんで邪魔すんの!?」
いわば“キレ芸”だ。少年は部屋の中のモノに当たり始める。ただ、配信道具のパソコンには手を出さないところが計算しているようにも見える。そう思ったリスナーは、
「パソコンを壊せ!」
とコメントするが、少年は無視。こうした反応がおもしろいのか、リスナーはさらに「仕掛け」を用意する。
少年宅に警察を呼んだのだ。しかし、少年のほうもそれを「ネタ」として配信する。途中で不安になったのか、
「お前らが呼んだのか? なんで邪魔するんだ!」
とリスナーにキレる。
少年はいつもケンカするような配信を続けてきた。「外配信(外出先での配信)」でも、警察に注意される場面を流し続けた。上村くん事件の通夜での騒動が記事になったときは「自分が写真に写っている。これでは、僕のせいだと思われる」と新聞社に抗議に行き、それを配信した。
■根本的に違ったリスナーとのつながり方
他人のケンカに人が集まるのは現実社会と同じだ。アメリカでは’90 年代後半、「ケンカ・チャット」が流行った。2000年代には日本でも参加者が増えた。最近では、生配信中、リスナーがケンカ口調で参加する「ケンカ凸」が目立つ。もちろん、マナーを守る人たちもいる。
配信して5年目になる男性投稿者(30代後半)がつくる番組のリスナーには、娘と同年代の若者もいる。
「生配信で得たものは人との出会いですかね。入院した時に見舞いに来てくれた人もいた。世の中にはいろんな人がいるんだと思った。自分が一番楽しませてもらっている」
と男性。男性にとって、リスナーは“家族”だ。学校に通っていない少年にとっても、応援してくれるリスナーは身近な存在だったのだろう。
女性の投稿者も多い。20代女性は、日々の出来事を話す番組をつくっている。
「自分の居場所のようなもの。数人で集まると、会話が弾む。私のことを友人より知っているかもしれない」
少年が「イキがる場所」と位置づけたように、この女性も生配信に「居場所」を求めた。ただ、リスナーとのつながり方は根本的に違った。
ケンカ凸をしたことがある40代男性は「本気でケンカしているわけではなく、番組を作ったり、参加している感覚」と話す。テレビ番組のディレクターになった感覚に近いのだろう。少年は本気になりすぎた。
生配信で人気者になると、支援者が集まる。配信による広告収入や支援金だけで生活する人もいる。投稿者が「お金がない」などと話すと、食料が宅配されてくることも。“食えない芸人”のようなものだ。比較的余裕のあるリスナーが、カネで“プライベート芸人”を囲い込み、危ない橋を渡らせておもしろがっているようにもとれる。
しかし、ネット収入だけで生活できるのはほんの一部だ。その枠に入ろうとすれば、人気を維持し、さらに人気を上げていく必要がある。そこには「過激さ」を求めるリスナーとの共犯関係がある。
<取材・文/ジャーナリスト渋井哲也>
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