20世紀から21世紀にかけて列島を揺るがした「大事件・事故・ブーム」のその後を追った大特集。今回は'01年、44人が亡くなった雑居ビル火災の現場となった歌舞伎町の今――

 

 東洋一の繁華街といわれる新宿・歌舞伎町には雑居ビルが立ち並ぶ。「歌舞伎町一番街」という通りの一角に、不思議な平屋建ての焼き肉店がある。’01年9月1日、逃げ場のない火災に襲われた雑居ビル「明星56ビル」(地下2階、地上4階)の跡地だ。

「当時のビルは解体されました。現在は両脇をビルに挟まれて2階以上がすっぽり抜けた空間が広がり、どう見ても異様です」(同町関係者)

 出火元は3階の麻雀店「一休」のエレベーター付近。火災に気がついた従業員3人は飛び降りて逃げた。しかし煙は4階に上がっていく。

 4階にはセクシーパブ「スーパールーズ」があった。従業員女性が119番通報するものの、階段が1つしかなく、しかも荷物などが置いてあった。階下からは煙、屋上にも逃げられない。3階の17人(うち従業員2人)、4階の全27人(同16人)の合わせて44人が死亡。防火扉が作動しなかったため煙の回りが早く、被害が拡大した。

【写真】44人の命が奪われた明星56ビル(中央)。防災の日の悲劇だった
【写真】44人の命が奪われた明星56ビル(中央)。防災の日の悲劇だった

 スーパールーズの元従業員は「亡くなったのは、ほとんどが常連客と働いていた女の子と黒服などのスタッフ。あの日以降、難を逃れたスタッフと連絡はとっていません。全員、散りぢりバラバラになりました」と振り返る。

 階段に荷物があったことで避難路をふさいだとも言われているが、元従業員は「当時から店に避難経路なんてありませんでしたよ。ビールケースが置かれていたり、スタッフの着替え場所になっていたり。何かあっても逃げられる状態ではなかったのはたしかです」と話す。

 この火災後、消防法は改正され、「防火対象物定期点検報告制度」が創設された。年に1回、有資格者による点検と報告が義務づけられた。

 ただ雑居ビルの場合、店舗ごとに管理者が異なるケースが多い。その場合、管理者で話し合って消防計画を作成する。さらに、立ち入り検査は営業時間内のみだったが、無告知で24時間できるようになった。新宿区は、火災のあった年から警察や消防と連携し、立ち入り検査を実施している。

「歌舞伎町は雑居ビルが多く、テナントの入れ替わりも激しい。ビルが建ったばかりのころは整備されているが、何年もたつと、オーナーや管理者が入れ替わる。改善指導することもあるが、さらに勧告や命令を出す段階になる前に、また新しい店舗となってしまう現状もある」(新宿区)

 街全体の空気も変わった。’04年、当時の石原都知事は歌舞伎町浄化作戦を始めた。街頭に防犯カメラが設置され、不法滞在の外国人は締め出された。非合法なアダルトショップや風俗店も摘発された。都はビル火災の前年、不当な取り立てを禁止する「ぼったくり禁止条例」をつくり、’13年には新宿区が、公共の場で客引きを禁じた条例を設けて一般客が楽しみやすい街づくりを推進した。今では観光バスのルートにも……。

 ただし、条例の効果を疑問視する声もある。

 歌舞伎町によく来る女性は、「客引きに引っかかって飲食店に行ったことがあります。でも、値段に見合わない料理が出ただけで、もう2度と行きません。駅周辺で飲食店の客引きに声をかけられることはよくある。なんで取り締まらないんですかね」と怒る。

 女性客もターゲットで「飲み放題だけどビール除外」「料理の量と質がひどい」など、“サービスのぼったくり”が目立つ。