先月27日午前5時30分ごろ、茨城県那珂市戸崎の叶野善信さん(82)宅から出火し、木造平屋建て住宅142平方メートルと木造の物置91平方メートルが全焼。
焼け跡から3人の遺体が見つかった。3遺体は火災後、連絡がつかない善信さんと妻の美津子さん(80)、下の孫娘の美希さん(15)とみられている。同居していた長女(48)は自力で脱出して難を逃れ、上の孫娘(18)は外出中で無事だった。
叶野さん一家が10月22日から電気を止められていたことは確認されており、ローソク生活だったとの情報もある。
妻の美津子さんは以前、畑仕事をしながら姑の面倒を最期までみていたという。善信さんは植木職人の傍ら消防団の一員として精力的に活動。まじめで優しい夫婦だと、2人を知る近隣住民は口をそろえた。
だが、善信さんは10年近く前に木から転落し、その後、交通事故にも遭って、あまり動けなくなっていた。美津子さんはそんな夫の看病をし、一家の家事全般を受け持っていた。朝早くから畑を耕し、大根、サツマイモ、ネギ、夏はスイカ……収穫した野菜などをご近所に配ったという。
美津子さんの長年の友人である女性(86)は、1週間に1度、茶飲み話を続けてきた。
「みっちゃんは小柄で、いつも手ぬぐいを頭に巻いていた。パーマは1回もかけたことなく、おしゃれではないね。でも最近1度だけお化粧をして、小ぎれいな服を着てきた時があった。”兄嫁のところを訪ねてご飯をご馳走になった”って言ってた。きれいな顔見せたかったのかね。私は足が悪いから、いつもお土産を持って訪ねてきてくれた。勝ち気だけどまじめで優しくて」
そう言って火災の2日前に届けてくれたという2本の大根を見つめる。その際、美津子さんは飼っていた中型犬と最近一緒に寝ていることを話していたそう。こんな申し出もしてきたという。
「うちから回覧板がいくんだけど、”午前中に届けてくれ。午後はちょっと受け取れないから”って言っていたんだ。今考えると、暗くなってローソクで火を灯しているのを知られたくなかったのかね。
老人ホームの勧誘も、”お金がかかるから断っているのに連日来るから大変なんだ”って話を2回聞いた。もし本当に金に困っていたなら言ってくれたらよかったんだ。何ができたわけでもないけど……」
泣きそうな表情で「いつも来てくれる友達がいなくなって私までおかしくなっちゃった。寂しいねぇ」とつぶやく。
今年の春、家族に訪れた小さな幸せの兆しについて、美津子さんは、民生委員に打ち明けていたことがあった。
「美希ちゃんが春から養護学校に入り新しい一歩だと、ご親族も喜んでいて、おばあちゃんも、”美希が毎日、学校に行っているんですよ”とニコニコしていました。明るいいい子で……」(民生委員)
美希さんは少し身体が悪いが、笑顔が似合う少女だった。
美希さんの姉(18)は、今春から働き始め、初任給で祖父母と母親にプレゼントを渡したという。
「じいちゃんには足腰が悪いからマッサージクッション、ばあちゃんにはバッグ。それを喜んで、肩から掛けていました……」と次女が振り返る。
決して裕福ではないが、なんとか5人で慎ましく生活していくことはできたのではないか。容赦ない火災がすべてを奪い、真相は闇の中のまま、根拠のない噂だけが残った。
現在、夫妻の長女と孫娘は、次女の家に身を寄せている。
「一緒に元気になるまで暮らそうと思います。後悔しても時は戻らないから、私にできることは残った2人を支えること。親の分まで生きてもらうしかないと思っています」