今月15日、長野県軽井沢町の国道18号の道路脇に、スキー客を乗せたバスが転落した事故。4月から社会人として就職先も決まっていた大学生ら15人が、寒い冬の未明に、命を奪い取られた。
トラック、路線バスを経て観光バスの運転手になったという大手私鉄バスの60代の男性は、いまだにヒヤッとする場面に遭遇するという。
「右左折は、やっぱり難しい。車の全長が長く、後ろが重い感覚をわかっていない運転手が、サービスエリアを出るときにぶつけそうになっているのもけっこう見るよ。危機一髪だね。バスの運転は難しいんだわ」
電鉄バスの30代の男性は、こう語る。
「週に昼・夜3回ずつくらい運転して、休みは月に4日。今回の事故を見て、明日はわが身かなって思っています」
運転手の肉声からは、人を運ぶことの難しさ、神経を遣う仕事の責務が伝わってくる。若手でもベテランでも、常に集中力と体力が求められる大型バスの運転。夜間運転になれば、視力の負荷もかかる。
JAF(日本自動車連盟)の情報誌『JAF Mate』の鳥塚俊洋編集長が必要性を訴えるのは、経験値の高さだ。
「運転は経験が大切。経験を積むほど運転は上手になります。大型バスは、乗用車と運転感覚が異なるんです」
先日のスキーバス転落事故以降も、嫌な事故は相次いでいる。福井県あわら市では19日昼過ぎ、大型路線バスが田んぼに横転し、男女4人が腰の骨を折るなどのケガをした。東京都大田区では20日夜、観光バスが環状八号線の中央分離帯の信号機の柱に衝突し、男女24人がケガをした。
4年前の2012年には、群馬県藤岡市の関越自動車道でツアーバスが防音壁に衝突する大事故が起き、7人が死亡し、38人が重軽傷を負った。その際、明らかになったのは、ずさんな運行実態と運転手の劣悪な運転環境だった。
国交省は運行距離の制限、交代運転手の配置、価格競争を抑え安全のコストを確保するための運賃の下限制(それ以上安く発注してはいけないという金額)、優良バスのシンボルマーク「セーフティバス」の設定などを打ち出した。しかし今回の事故の当該会社は、ルールを厳守していなかった。
交通労連(全国交通運輸労働組合総連合)の軌道・バス部会の鎌田佳伸事務局長が、問題点を指摘する。
「旅行業者から“この価格でやってくれ”と安価な料金で依頼を受けている。今回、下限制限を守ると約27万円なのに、19万円で発注していた。いちばん悪しきパターンが、変わっていない。引き受けるバス会社も問題ですが、元凶は悪質な旅行会社です」