近年、暴走した高齢者が事件を起こす事例が目立つ。人生経験豊富なはずの高齢者が、公共の場でわれを忘れて“ブチ切れ”てしまうのはなぜなのか?
刑法犯として検挙される高齢者は、'89年の6625人から'13年には4万6226人と7倍に増加。高齢化が進む中、“ブチ切れ高齢者”は本当に増えているのだろうか?
高齢犯罪者の事情に詳しい慶應義塾大学法学部の太田達也教授は「断言はできないでしょう」「情報社会になったことで昔よりも(高齢者の暴走事例を)知る機会が増えただけと言える側面もある」と前置きしたうえで、キレる高齢者の存在について、こう話す。
「高齢者自身の資質が変わったのではなく、高齢者を取り巻く環境の変化が要因だと考えるべきです」
太田教授は、高齢者が暴走する要因に、“3つの社会的孤立”があると見る。
「家族からの孤立、近隣からの孤立、行政からの孤立。この3つが高齢者犯罪が増加する共通要因となっていることが、実態調査からもうかがえます。家族と離別、死別していたり、子どもがいてもほとんど関わらない高齢犯罪者が非常に多くなっています」
子どもや孫との同居や、近所に住んでいて物理的・精神的支援を受けられるのは、幸福なひと握りの高齢者だけ。
「平成に入ってから、独居家庭の高齢者、もしくは夫婦のみの高齢者世帯の数は激増しています」と太田教授が指摘するように、支えのない高齢者、2人だけで生きている高齢者夫婦が増えているのだ。
「長寿化が進み、まだまだ体力も気力もあり余っている高齢者がたくさんいます。ですが、活動の場は広がっておらず、居場所がない人も多い」(社会評論家の小沢遼子さん)
高齢者が置かれている、切ない現状に理解を示し、キレる高齢者の発生メカニズムを解き明かす。
「理想と現実のギャップから芽生えた喪失感と、エネルギーの注ぎ先がないことなどにより、日々イライラがつのっていくのではないでしょうか。それがあるとき一気に暴発し、暴走してしまうのだろうと思いますね」
好々爺、ご隠居といった枯れたイメージが薄れ、心身ともにエネルギッシュなまま、そのちからの使い道に困っているという現代の高齢者。
「普段のストレスを軽減するためには、少しでも身体を動かすこと。人とのコミュニケーションを回復すること、の2つが重要だと思います」
小沢さんはそう訴える。具体的には朝、玄関先を掃除する。散歩する。仲間と旅行や散歩を趣味にする、といった具合。
「1日中、家にいて趣味もないなら、デモに行くのもいいと思いますよ。“バカな政治家引っ込めー”と思い切り叫んだらスッキリ。お金もかからないし、仲間もできますしね」
フラストレーション解消のひとつの策としてのデモ参加をすすめる。
太田教授も、「高齢者は地域ネットワークに参加することです」と予防策を指南し、次のように訴える。
「誰かひとりでも相談できる人がいれば、大きなトラブルになったり、爆発してしまう前に助けたり、解決できる可能性は高い。周りも高齢者を孤立させず、高齢者のためのグループやサービスを教えてあげるなど積極的に社会の輪の中に取り込んであげるべきです。双方の働きかけを」
日ごろから高齢者に接している、『愛デイサービスセンター』の岡田勝子代表は、思いやりをもって高齢者と接することの大切さを説く。
「身体の不調や持病などを抱えている方も多く、ときどき機嫌が悪くなったり口が悪くなる方はいます。そういうときは“ああ、今日はつらい日なんだな”と受け止め言葉を優しくして相手に寄り添う、できる限り要望を聞いてあげる、などの対応を取ります」