『ゆりかごから墓場まで』は社会保障制度の充実を指す言葉。かつて日本は“世界でもっとも成功した社会主義国”と呼ばれるほどの手厚い社会保障サービスで知られていた。しかし、いまやその面影もない。
待機児童をめぐる一連の動きを作った匿名ブログに「生んだのはあなたでしょう、親の責任」と平然と言い放つ政治家もいるほどだ。
なぜ介護や保育といった「ケアの仕事」は待遇が悪く、有資格の専門職でありながら軽んじられるのか。
「厚労省が先月発表したデータでは、保育も介護も、全職種平均より10万円以上も月収が低い。そして保育や介護の現場で働く人のほとんどが女性です。つまり、女性労働だから低賃金で、低待遇だということ。家族介護や育児の延長だろうといって、安くみられているのです」
社会保障政策に詳しい、民進党の山井和則衆院議員は、そう断言する。安く見られているのは保育や介護だけではない。
「いまの社会のなかで、女性労働そのものが軽く見られる構造があり、それが低賃金につながっています。そこから根本的に変えていかないといけないのに、安倍政権は、女性の活躍推進と口では言いながら、いざ介護や保育の賃金を上げようと野党が言えば反対する。本腰を入れる気がない」
その姿勢は政府が先日発表した、待機児童の緊急対策からも見て取れるという。
「政府は、保育士資格を持つ職員の割合が少ない、小規模保育所を増やそうといっています。保育士1人で5人の子どもをみていた自治体には、6人をみるよう徹底させるという。
待機児童対策のために、もっと子どもを詰め込んで安全と安心を犠牲にしろなんて、ママさんたちは誰も言っていません。そのうえ肝心の保育士の処遇改善には、ほとんど応えていない」
中長期対策には賃上げを盛り込んでいる。
「保育士の給与を月に4%上げると言っていますが、そのうち2%は人事院勧告といってすでに決まっていること。残りの2%も今から4年前、民主党政権のときに民・自・公で2%上げましょうと決めたことがまだ実行されていないだけ」
介護士の賃上げについても、安倍首相は月額1万2000円を約束していた。
「厚生労働省の介護保険分科会の発表では、月に5000~6000円のアップ。1万2000円には届かない。介護離職ゼロと言いながら、介護報酬を引き下げ賃上げに反対するなど、むちゃくちゃです。
また財源がないという一方で、1200万人の高齢者に3万円ずつ一時金をバラ撒いたり、補正予算で若者にも商品券を配ると言ったり、選挙対策には目の玉が飛び出るようなお金を湯水のようにバラ撒く。であれば、いちばん切実な保育士や介護職の待遇改善に使いましょうよと言いたい」
保育や介護を必要とする人たちは増え続けている。
「それにもかかわらず、社会保障費をどんどん削ろうというのが安倍政権の既定路線」とは鹿児島大学の伊藤周平教授(社会保障法)。
「軍備費や公共事業にばかりお金を割いている。消費増税が引き延ばされたら財源不足のものが出てくると思うが、そもそも社会保障に消費税を充てることが間違い。諸外国ではあらゆる税収を充てています。待機児童対策など緊急性の高いものは、むしろあまり緊急性のない公共事業費を削って回すべきです」