41歳の母親を殺害した高校1年生の長女(15)が、ゴールデンウイーク明けに逮捕された。事件は約3か月前、JR御徒町駅から徒歩10分弱にある高級マンションで起きた。
「被疑者は今年2月26日ごろ、東京都台東区のマンション内において、殺意をもって母親の頸部にタオルのようなものを巻きつけて絞めるなどし、頸部圧迫による窒息で殺害した。5月8日、通常逮捕しました」(警視庁)
母親は教育熱心で、ピアノや水泳を習わせ、小学校から私立に通わせるなど厳しくしつけていたという。周辺住人が心配し、2008年9月、同区の子ども家庭支援センターに「虐待ではないか」と通報したこともあった。近隣主婦は「親の過度な期待が負担になっていたのかも」と不幸な結末に同情する。
『こころぎふ臨床心理センター』代表で臨床心理士として数々の刑事事件の心理鑑定も手がけてきた長谷川博一さんは、こう事件を読み解く。
「事件の加害者について、おとなしかったという証言があるようですね。母親から一方的な指示を受け続け、負の感情をどんどんしまい込んでいたと考えられます。スマホが欲しいと主張したようですが、受け入れられなかったことが、うっ憤を爆発させるトリガー(引き金)になってしまったのかもしれませんね」
母娘関係改善カウンセラーでメンタルケア心理士の横山真香さんは、こう指摘する。
「家庭がきちんと機能していたのかも問題です。母娘関係にばかり注目しがちですが、家族全体の関係が大きく影響していると思います」
これまでの相談実績から「母娘問題を抱えている人の8割以上は、両親が不仲です」というデータを示す。
■親の理想のレールに乗せることは“優しい虐待”
わが子のためのしつけが、かえってわが子を追い詰めてしまうことがあると、専門家は口をそろえる。
「子どもは、たとえ間違っているものだとしても、小さいころに親から聞く言動を疑うことができません。否定されると“自分はダメな子”と思ってしまいます」(長谷川さん)
『えむ心理研究室』の所長で臨床心理士の石割美奈子さんによれば「親が日常的に言葉やしぐさで子どもを支配していると、子どもは主体性を失っていきます」という。
「母親の支配下にある子どもは、選択肢がすごく少ない。答えが白か黒かだけでグレーゾーンがないので、行動範囲が狭められがちです。母の支配に怯えきっていて、自由に遊んだ記憶がない場合もあります」(横山さん)
心が抑圧された状態に陥るという。そのうえで「一番してはならないのは」と、横山さんが指摘するのは、
「その子のパーソナリティーを非難することです。“なぜ勉強しないの。だからあなたは怠け者っていわれるのよ”などの言葉を、子どもは自分が否定されたように感じ、自尊心を失っていきます。注意するにしても“どうして〇〇しなかったの?”と行為の注意にとどめ、その奥に踏み込まないことです」
非難同様、否定、命令や指示、決めつけなども、いい影響を及ぼさないという。
「“〇〇してはいけません”などの禁止、“○時に帰りなさい”などの指示、“ダメな子ね”などの否定の言葉は、親子間の会話でいりません」(長谷川さん)
NGワードはほかにもある。
「“心配しているから”という文脈の言葉は使わないこと。“あなたのためを思って言っているのよ”“将来が心配で……”などは、自分の欲求を子どもに押しつけるのを正当化するための親の心理の表れです」
さらに一見、子どものためを思っている言葉で、親の理想のレールに乗せることを“優しい虐待”と定義。
「言葉などのコントロールが続くと、子どもが大きくなったときに自己決定の力が育ちません。ですから、ある程度口答えができる環境を作ることが大切です」