事件現場には規制線が張られていた。散歩中の男性が遺体を見つけたという。
事件現場には規制線が張られていた。散歩中の男性が遺体を見つけたという。

 今月5日、進士康子さん(42)の遺体が茨城県龍ヶ崎市の西谷田川で見つかった事件。16歳の少年が親に付き添われて警察へ出頭し、「人を殺して川に捨てた」と話し、6日逮捕された。進士さんの背中には刺されたような傷が多数あった。「まさか人を殺すなんて…」と戸惑う同級生。少年を殺人犯にした背景には何があったのか――

 面識も利害関係もない見ず知らずの42歳の女性を背後からめった刺しにした。上半身に残された傷は10か所以上。男か女かも確かめないまま、刺し殺したという。そして遺体を川に棄てた。

 茨城県龍ヶ崎市の西谷田川に浮かぶ、青の半袖Tシャツとデニムパンツ姿の死体が発見されたのは今月5日夕。

 同日夜、同県つくば市に住む16歳、高校2年の少年が、両親に付き添われ、県警つくば中央警察署に出頭した。「女性を殺して、川に捨てた」と話したという。少年はたびたびこの川に釣りに来ていた。

■少年の近所の評判は「動物が好きな一家」

 少年一家は6年前、つくば市に越して来た。両親と姉と妹の5人暮らし。

「挨拶もしっかりされますし、奥さんは自治会の役員を2役兼任でやってくださって、自治会の活動にはとても一生懸命でした」と近隣に住む女性は話す。

 動物が好きな一家と周囲には映っていた、と別の女性住民が振り返る。

「引っ越して来た当初は、家の隣に小屋を建てて、クジャクを飼っていました。大きな水槽には魚がいて、餌代がかさむんです、って旦那さんが話していました」

 父親と息子が一緒に釣りに行く姿が目撃され、娘や娘の友達と一緒に父親が遊んでいる姿を見て、住民の男性は、

「子煩悩な人だって思ったね。本当に普通の家庭だよ」

 その家から毎晩、「うううぅ」といううなり声が急に聞こえるようになったのは、6月終わりからだったという。耳にしていた近隣の女性は、こう証言する。

「5日の夜に出頭してから、ピタリと聞こえなくなった」

 うなされていたのが少年とすると辻褄が合う。殺人を犯したことで、良心の呵責にさいなまれていたのか。

■高校では「まじめで成績は優秀」と戸惑う声の一方で

 少年が通っていた高校では、同校教頭が沈痛な表情を見せる。

「まじめで成績は優秀でした。プリントがよくできているねと声をかけると、にっこりと笑ったり。彼がやったということが嘘のようで、いまだに信じられません」

 中学は最初、私立に通っていたが、何らかの理由で地域の公立中学に転校した。だが新しい中学には1度も通わなかったとクラスメートが明かし、

「でも、高校は頑張りたいからって、毎日ちゃんと来ていたよ。休むこともなかったし。頭も本当によかった」

 ほかのクラスメートも、

「まさかこんなことをするなんて……。おとなしくて、想像もできない」「誰かと話しているところを見たことがないなぁ。うつむいて座っていることが多かったよね」

 と、少年=殺人犯とはまったく結びつかない。

「ジュースを奢ってくれたり、釣りのことを教えてくれる優しい先輩でした」

 少年を知る後輩は、そう語るが、こんな面も。

「普段から感情を押し殺しているような、我慢しているような印象を受けました。どこか闇を抱えている感じでした」

■「殺すぞ」被害者に罵声を浴びせられたという証言が次々に

 一方の被害者は、その後の捜査で、現場からは10キロメートル以上離れた同県牛久市に住む進士康子さんと判明した。

「中学生のときにお母さんを亡くしてね。おとなしくて、優しい感じのかわいい子だったけどね」

 と記憶する近隣住民は、大人になった進士さんの変わりように首をひねる。

 3~4年前、進士さんは実家に戻って来た。変わった様子が見られるようになったのは2年ほど前から……。

「家の前を通ると“殺すぞ”と叫ばれて怖かった」「“水戸へ帰れ”“おまえは田舎者じゃなくてド田舎者だ”とかね」

 などと罵声を浴びせられたという証言が次々に集まる。ただ歩いているだけで、水をかけられたという人も。

 家の前の通学路が、児童の親の不安の声で、変更になったこともあった。周辺住民から、市役所や警察にも相談が持ち込まれたという。

「区長さんとか民生委員の人が何度も足を運んで、病院で診察を受けてもらうことをすすめたんだけど、お父さんは“わかりました”というだけ。“娘が嫌がっている”って」

■犯罪心理に詳しい専門家は

 14日現在、少年と進士さんのつながりを示すものはない。

「殺人を犯すのには、何かしらの理由があるんです。恨みを晴らすとか、金が目的とかね。でも今回は見当たらない。そうすると純粋に殺人をしてみたかったのではないかと感じます」

 犯罪心理に詳しい新潟青陵大学の碓井真史教授は、そう解説すし、少年の心の中に、

「もともと破壊衝動があったのかもしれません。そこに彼の心を不安にさせる何かが起こった。そして外出したときに、人通りの少ない道に、自転車に乗った女性が来た。たまたま状況がそろってしまい、殺人衝動が抑えられなくなったのではないかと推測します。もしかしたら、女性の暴言が日々のストレスに火をつけた可能性もあるかもしれない」

■人を殺す半日前、少年に異変が

 少年が人を殺す半日前、クラスメートはいつもと違った少年の様子を目にしていた。

「国語の授業中に、いつもは寝たりしないのに、寝るような姿勢になっていたの。先生が何度も呼びかけても応えず、机に突っ伏したままだった。先生が大丈夫かって身体を触ったら起きたみたいだけど、いつもはちゃんとノートは取っているし、先生に聞かれたら答えるし」

 その異変が、何かの予兆だったのか。異変はその後どういう経過を経て、見ず知らずの人をめった刺しにして殺すという強烈な殺意に変貌していったのか。