写真はイメージです

 国立社会保障・人口問題研究所は「日本の世帯数の将来推計」を1月12日に公表、2040年の全世帯数は5076万世帯、そのうち単身世帯1994万世帯の約4割を65歳以上が占めるとの予測を示した。

 同年には65歳以上の高齢者数は約3868万人とピークを迎えるとみられる。これは人口の2・8人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上で、街に高齢者があふれる数字だ。

 両親と子どもというファミリー層が世帯のスタンダードだった時代から高齢のおひとりさま時代へと大きな転換期を迎えようとしている。

 私たちの暮らしはどう変わるのだろうか。生活に直結する身近な4つのテーマについて専門家に話を聞いた。

ファミリー層が減るファミレス

 まず食について、新日本スーパーマーケット協会の名原孝憲さんに聞くと、

「商品の内容量が変化します」

 砂糖やしょうゆなどの調味料は大容量のファミリーパックから少量、使い切りといった小分けに変わり、野菜や果物は丸ごと1個からカットされたものが増える。これらの商品がスーパーマーケットの陳列棚を占めることが予想されるという。

「魚や肉、野菜も惣菜に加工したり、自宅で温めるだけで食べられる半調理品が好まれるでしょう。今のような生鮮食品売り場の形態は縮小するかもしれません」(名原さん)

 外食産業でも料理をテークアウトする「中食」の需要が高まると日本フードサービス協会の石井滋さんは予想する。

 自宅でゆっくり食事をしたいという高齢者の要望が高いのがその理由だ。

「店内はひとりでも気兼ねなく食事ができるようにカウンターで仕切りをつけたり、視線が交わらないように工夫した座席の配置をしている店が増えています」(石井さん)

 今後、カウンター席はファミリーレストランなどでも増えていくという。

「最近のファミリーレストランは主力だったファミリー層よりひとりで晩酌、友人と談話、仕事の打ち合わせという層も目立ちます」(石井さん)

 そうなるとお子さまランチはヘルシーメニューに、ソファのボックス席は人数に応じてレイアウトを変更できる2人がけのテーブル席やカウンター席になるなど、顧客や利用方法のニーズに合わせた形態への変化が進むかもしれない。

 次に住まいはどう変わるのか。日本人は1度、購入した家に住み続ける意識が強い。

 不動産コンサルタントの清水稔さんは、

「郊外の4LDKの2階建て住宅に単身で住んでいたら、維持管理費や固定資産税の支払いだけでも大変。間取りは2LDKあれば十分、バリアフリーでセキュリティーも確保されているマンションのほうが高齢者は住みやすいかもしれません。商店や病院にも近く利便性を重視した土地にうつる人も増えるでしょう」

 とライフステージに合わせた住み替えの必要を強調する。

低所得・未婚・単身世帯

 将来、利便性のいい地域は単身の高齢者が多く暮らす街になるかもしれない。

永代供養墓。13回忌、33回忌と希望に応じ供養、その後ほかの遺骨と合祀される

 お墓も、家族単位の先祖代々の墓から個人が葬られ方を選択できる時代へと変わる。

「単身高齢世帯が注目しているのは、血縁者がいなくても供養を続けてくれる永代供養などです。石のお墓だけでなく、霊園の敷地や山、草木の下にご遺骨を埋葬したり、手入れのしやすい室内の納骨堂などで選択できます」

 と話すのはお墓や葬儀に関するポータルサイトを運営する鎌倉新書の榎本佳子さん。

 ほかにも生前葬や故人と親交があった友人たちが葬儀とは別の形で故人を偲んで『お別れ会』を開くなど、弔いの形も多様化しているという。

 そして身寄りがなくても、見送ってくれる人たちがいる。

 神奈川県横須賀市では、生活に困窮する高齢の単身世帯などを対象に、約25万円の低価格で葬儀から永代供養までを請け負うエンディングプラン・サポート事業を'15年から行う。家族に代わって葬儀や弔いのニーズを聞き、最期は故人を見送る。同市福祉部の北見万幸次長は訴える。

「生活に困っていても人生の最期の意思を尊重することは大切なことです。ひとり暮らしの高齢者は増え続けます。今後、同様の取り組みは各地に広がるでしょう」

 こうした背景には、未婚で高齢の単身世帯が将来的に増えることがある。

「単身世帯の高齢者といっても未婚か配偶者との死別か、子どもがいるかいないか、貯金の額など、資産や経済状況によっても大きく異なります。最も厳しいのは今40~50代の非正規雇用で未婚、社会保険料を払う余裕がない、貯金もないという人たちです」

 と、指摘するのは社会保障問題に詳しい日本福祉大学の山上俊彦教授。

「低所得層で未婚の単身世帯は22年後、生活保護に頼らないと年金だけでは生活できない状況になることも予測されます。特に単身の女性が生活に困窮した場合、長く厳しい生活を強いられることは想像できます」(山上教授)

あと22年、今から備えを

 介護についても同様だ。介護や福祉の支援を受けるためには自分から申請する必要がある。しかし、高齢で介護が必要な人が自分から役所を訪れ、相談できるのだろうか。

「家族や頼る人がいれば相談もできますし、お金がある人は施設に入ることができます。そうでない場合、介護が必要な人でも放置される可能性が高い」(山上教授)

 家族社会学に詳しい長野県短期大学の築山秀夫教授は「単身高齢世帯問題のカギは『結婚』」と話す。

「日本は法的にも家族、世帯という単位でのつながりが強い。結婚率98%なんて時代もありましたが今は結婚=恋愛という風潮のため、生活困窮を理由に恋愛も諦める人が出ています。結婚したくてもできないことが問題です」

 未婚率の増加は高齢者世帯に限らず、その下の世代でも同様の課題とされ、'40年以降も増加する可能性は高い。

「日本は家族になるというハードルがとても高い。特に“結婚してから子どもを”という考え方が根強いため、事実婚や同性婚の容認、養子縁組は外国に比べて遅れています。子育てや母親への支援についても税金の分配方法や使い方、社会保障制度や福祉の仕組み、世帯についても見直し、変えていかなければ、少子化に拍車がかかり生産人口は減っていきます」(築山教授)

 2040年まであと22年。介護保険料や医療費といった社会保障費と生活保護費が増えれば、大幅な増税は避けて通れない。築山教授は「22年後に45%」という数字にばかり注目されていることに、

「今の時点で単身世帯の3割が高齢者、単身世帯数は家族構成の中でもトップです。将来いきなりこの問題が噴出するわけではありません。備えることができるはずです」

 おひとりさま時代は到来している。もしかしたら大転換期は“いま”かもしれない。