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 少子高齢化の日本でいま急激な勢いで増えつつある単身世帯。2040年には国民の4割がひとり暮らしになると予測されている。女性は男性より平均寿命が7年も長く、子どもがいても、やがては巣立つ。いつかはやってくる「おひとりさま」状態に不安を感じている読者は決して少なくないだろう。

「いえいえ。ひとり暮らしこそ老後の理想型です」

 こう語るのは、大阪府門真市の耳鼻咽喉科専門医で、『老後はひとり暮らしが幸せ』などの著書がある辻川覚志医師(66)だ。

「おひとりさま状態」のほうが気楽

 辻川医師は、市の医師会による高齢者向け電話相談や、受診者からの聞き取り調査を行い、60歳以上の高齢者1000人以上にアンケートを実施、100点満点で毎日の満足度などを採点してもらった。

 すると驚くべき結果が。独居生活者の平均は73・5点と、同居者がいる人の68・3点を5点以上も上回ったのだ。

 さらに同医師の診療所を訪れる高齢患者465名を対象にした調査では、最も満足度が大きいのは、独身で子どももいない“完全おひとりさま”状態の人。次いで三世代同居(一家に孫を含む4人以上)の人、結婚経験がある独居者の順で、独居者は三世代同居に比べわずかに低かった。満足度が最低なのは、家族数2(夫婦または子と同居)だったという。

 この結果に辻川医師は、

「開業医レベルでは“高齢になったらひとり暮らしのほうが気楽”ということはどの医師も知っています。ですから特に驚きはなかったですね。三世代同居で満足度が高いのは、孫という緩衝材がいるからでしょう」

 ひとり暮らしなら、部屋がどれだけ散らかっていても本人がよければそれでよし。気を遣う必要はない。しかし、同居する家族がいれば話は違う。わずらわしさを感じるときもある。それが「おひとりさま」の満足度の高さにつながっていると、辻川医師は分析する。

幸せな老後を迎えるために

 そうはいっても、老後にひとりでは寂しいのでは? アンケートでも、確かに孤独感が浮き彫りになった。だが、“家の前のスナックにおしゃべりに行く”“ビジネスホテルの宿泊代が安くなる盆正月には旅行へ”など、自分なりの対処法を発見するものだという。

「驚いたのは、病気などで身体が弱ってきていても、“それでもひとり暮らしのほうがいい”と答えている点。これは本当に意外でした」(辻川医師、以下同)

 ちなみに、この結果には男女差や経済力による差は、ほとんど見られなかった。

 年を重ねてからのおひとりさま生活をよりよいものにするには、どうしたらいいだろうか?

「元気なうちは好きなことをやって自分でなんでも取り組む意識を持ち続けると身体と脳の衰えを防ぎ、ひとりで暮らせる時間を長くすることにつながります」

 さらに同居では、家族に気を遣いすぎることなく自由に振る舞えるかが大きなポイント。元気なうちから、気ままに行動できる下地作りをしておくべきだと指摘する。

「カギを握るのは晩ご飯作り。日本女性は食事の準備に時間をかけすぎです。老後もそれを要求されたら、そら、しんどいですわ。若いうちから、夫をドイツ人のようになるよう教育しましょう。彼らの晩ご飯はパン、チーズ、ソーセージといったもので火を使わない。ご家族にも、スーパーのお惣菜などいまから中食料理に慣れてもらってください」

 “この部屋は私が自由にできるスペース”と、家庭内をテリトリー分けするのもおすすめだ。

 幸せな老後を迎えるためには、「いまから夫婦ともに、老後の自由気ままさを確保してください」

<取材・文/千羽ひとみ>