近年、増加の一途をたどる孤独死。凄惨な孤独死現場はネットニュースなどの記事で広く知られるところとなったが、その後の故人の弔い、つまり葬儀はどのように執り行われているのだろうか?
名古屋市を中心に、関東、中部、関西地方で葬祭事業とフランチャイズ事業を展開する株式会社ティアの執行役員で、関東事業部・事業部長の近藤恭司さんは葬儀業界に携わって13年。これまで孤独死の現場に数々立ち会ってきた。
“嫌われても、しつこく電話しておけばよかった”
自宅で孤独死が発見されると、警察による検視・検案が行われる。そのとき遺族への連絡が行われ、現場に葬儀社が呼ばれて遺体を引き取るケースもあるという。そこで近藤さんが目にしたのは、変わり果てた遺体と遺族の嘆きだ。
「孤独死というとお年寄りのイメージがありますが、現場で感じるのは、意外と若い人の孤独死、特に自死が多いということです。例えば20代前半の男性は都内の自宅で首をつって亡くなられていたのですが、死後だいぶ時間が経過してから発見されましたので、皮膚がただれて身体が黄色く変色していて、ご遺体の状態はひどかったです。
地元の九州から駆けつけたご両親は、息子から連絡はなかったけれど元気にやっている証拠だと思っていたとショックを受けられていました。“悩んでいると知っていれば、すぐに飛んで来たのに。嫌われても、しつこく電話しておけばよかった”と、お母様がとても悔やんでらっしゃったのが忘れられません。そのご両親は都内で火葬のみ行い、九州に帰ってから身内だけで葬儀をしますと言っていました。
病気を患って自宅の玄関で倒れてそのまま亡くなられた50代男性の場合は、アパートの郵便受けの小さな窓から異臭が発生したことで発見されました。私が部屋に入ると壁に幼い男の子との写真がたくさん飾ってあって、結婚されているのかなと思ったのですが、実際はお子さんが小さい頃に離婚されたそうです。写真を見て昔を懐かしんでいたのかもしれません。ご遺体を引き取りに来られた息子さんが、“父とは何年も連絡をとってなかったので”というお話をしていたのは感慨深かったです」(近藤さん)
増加する『民生葬』
「家族や周囲ともっとコミュニケーションを取っていれば」これは孤独死の現場で近藤さんが痛切に感じる思いだという。家族、親戚と疎遠になっている孤独死では身寄りがすぐに見つからないケースも多い。その場合は、居住地の自治体が遺族を探す。
「役所の生活保護担当のケースワーカーの方たちが市民課などと連携しながら、ご遺族を探しているのが現状で、連絡が取れるまで1か月以上がかかることもあります。その間は警察や葬儀社などの遺体安置場でご遺体を預かります。見つかったご遺族に少しでも収入がある場合には、ご遺体を引き渡し葬儀を任せます。行政がご遺族を探す理由については、『民生葬』の件数が増えてきているからだと思います」(近藤さん)
生活保護受給者本人が亡くなった場合、また、生活保護受給者が喪主を務める場合は、市区町村から葬儀費用として「葬祭扶助」が支給される。支給額は各自治体によって異なるが、およそ19万円。この支給額の範囲内で行う葬儀を「民生葬」という(福祉葬・生活保護葬とも)。
株式会社ティアが本社を構える名古屋市の生活保護受給者の民生葬の件数(身内が葬儀代を負担した件数は含まない)は、平成27年度は1227件、28年度は1468件、29年度は1410件と増加傾向にある(名古屋市役所健康福祉局生活福祉部保護課保護係よりティア調べ)。支給額でできるのは火葬のみの「直葬」だ。
「孤独死の場合、だいたい直葬が9割、通夜・葬式を行う一般葬は1割あるかないかくらいです。ご家族10人くらいが集まって直葬を行うことが多いです」(近藤さん)
死後日数が経過して遺体が痛んでいると、火葬して遺骨にしてから葬儀をする場合もあるという。
「故人様の生きていたときのイメージがありますから、ご遺体が痛んでいると、姿形や臭いなどでその方のイメージからかけ離れた状態になってしまいます。見た方がショックを受けてしまう。ご家族も亡くなったご本人も見てほしくないだろうと考えて、火葬してから葬儀を行います。それに、亡くなった方と連絡をとっていなかった結果、孤独死しているということなので、世間体を考えて、近所の方を呼んだ大々的な葬儀はやりにくいというのもあります」(近藤さん)
「疎遠だから」と遺体や遺骨の受け取りを拒否
孤独死に限らず、一般的にも直葬や家族葬(家族のみで通夜・葬儀を行い、参列者は呼ばない)など葬儀が縮小傾向にあるが、特に孤独死では「遺体を見せられない、孤独死の理由を追求されたくない」ということから直葬が選ばれている。また、近藤さんが一番衝撃的だと話すのは、遺体や遺骨を遺族が受け取り拒否するケースだ。
「ご遺族を探す場合、最初は故人様の親や子から始まり、兄弟、甥姪の順に探しますが、甥や姪だと拒否することが多くなってきます。実の子供ですら“疎遠だからもういいよ”というのもあります。受け取りを拒否されるのは私たちもショックです。ご家族の間でどういう過去があったのかと考えさせられます」(近藤さん)
遺体が引き取られない場合は、身元不明人と同じく「行旅死亡人」として扱われ、発見された自治体が引き取って無縁仏などに埋葬される。また、火葬後は遺骨の引き取りが原則となっているが、自治体によっては遺骨の受け取り拒否が可能な場合があり、火葬場が処理を行うという。
「ご遺骨の受け取り拒否は年間でかなりあります。火葬するお金は払わざるを得ないということから支払われますが、ご遺骨の受け取りは拒否して“私は火葬場には行きませんから、あとはやっといてください”と一度も姿を現さない。何年も会っていないお父さん、お母さんの遺骨をいきなりマイホームに持って帰るのは困る、お墓を持てない、家にも置いておけないなど、いろいろな事情があるのだと思います」(近藤さん)
過去には電車の網棚や公衆トイレなどに遺骨を放置する事件も起きて話題になった。親族との希薄な関係性だけでなく、個々人の経済的、心理的な余裕のなさもあるのかもしれない。
葬儀の形式にこだわりがなくなり自由になってきた
果たして、増える孤独死と簡素化する葬儀をどう捉えたらいいのか。女性ひとり暮らしの老後を支援するNPO法人SSSネットワークの代表であり、『老後ひとりぼっち』『長生き地獄』(ともにSBクリエイティブ)などの著書があるノンフィクション作家の松原惇子さんは「長生き時代の葬儀は変容している。直葬や家族葬は増えていくだろう」と予測する。
「今はお金をかけられない、かけたくないという理由から、葬式をしなきゃ、お墓を持たなきゃ、という意識がなくなってきているんだと思います。日本人は形式にこだわるけれど、自由になってきたとも言えるんじゃないでしょうか。遺骨の受け取り拒否が増加していることはとても悲しいことですが、ある意味、その人が家族とどういう関係を築いて、どう生きてきたかを表しているのでは」(松原さん)
ひとり身の人にとって、死んでから後のことは不安の種だ。SSSネットワークでは、シングル女性会員からの「最後に眠る場所が決まると安心」という声を聞き、2000年に「女性のための共同墓」をバラの霊園・府中ふれあいパークの中に建立した。その後、「火葬は誰に頼めばいいのか、納骨は誰にお願いしたらいいのか」との声を受け、2013年から直葬プランを共同墓とセットで提供している。年に一度、共同墓で行っている追悼会では、その年に亡くなった会員を追悼するとともに、ワインを飲みながら仲間同士が語らうという。
孤独死が増加していく今後は、ひとり身の人の要望に応える葬儀の形態やサービスが必要になってくるだろう。
近所に友人がいない高齢者が増加
また、松原さんは、「ひとりの老後に一番大切なのは、仲間をつくること」と話す。元気なうちから気のおけない友達と信頼関係を築いておくと、生活の困りごとを助け合うことができるからだ。
近藤さんも、孤独死の予防にはご近所づきあいを含めたコミュニティ作りが最も大切だと語る。
「ティアでは会員さん向けにサロンを開いてフラワーアレンジメントや脳トレなどの無料コミュニティイベントをやっているのですが、それは孤独死予防のための企業活動でもあります。サロンにいらっしゃる高齢者の方とお話しすると、お友達が近所にいないという方がいっぱいいます。サロンが楽しければ元気になるし、お友達ができれば、自宅じゃなくても外でお茶してくれるかもしれないですから」(近藤さん)
ただ、サロンや葬儀の勉強会などの参加者は、女性が大半だという。「女性に比べて男性は外に出て行きにくく、高齢で一人になると周りとの関係が途絶えていく傾向がありますし、あまり自分の病気についても周囲に話したがらないと感じます。男性は自分の死を現実的に考えるのが苦手なのではないかと思います」と近藤さん。
結婚していても離婚や別居でひとりになることはあるし、若くても年をとっていても、突然死を迎えることもある。私たちは誰でも孤独死を迎えるリスクがある。「その時」のために、自分がしておくべきこと、関係を育んでおくべき身近な人について考える必要があるのではないだろうか。
(取材・文/小新井知子)