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 食べたいものは何でも食べられる飽食の時代に今、栄養が足りていない“新型栄養失調”の人が急増している。

毎日の食事で延ばせ!「健康寿命」

「摂取カロリーは十分足りているものの、人間の身体に必要な5大栄養素、特にビタミン、ミネラル、食物繊維が不足している状態のことを新型栄養失調と言います」

 そう教えてくれたのは、東京慈恵会医科大学附属病院管理栄養士の赤石定典先生。

 食事制限ダイエットによる弊害や、ファストフードや加工食品の利用の増加などによる食事内容の偏りが、新型栄養失調急増の大きな原因となっているのだ。

「栄養が不足した状態が続くと身体の健康バランスが崩れ、将来的には認知症や生活習慣病などを引き起こす要因にもなりかねない。とても危険な状態なんです」(赤石先生 以下同)

 厚生労働省の調査で、元気に自立して生活できる期間=“健康寿命”は、男性が70.42歳、女性が73.62歳。平均寿命はそれぞれ79.55歳、86.30歳であるから、健康寿命のほうが延伸率が少ないことがわかった。今後、さらにその差が広がっていくことで、病気を抱えるなど介護を必要とする期間が延び続けることが近年、懸念されている。

「健康寿命が短くなっているのには複数の要因が考えられますが、やはり食生活の影響は大きいです」

 そこで、健康寿命を延ばして生活の質の低下を防ぐために、現代人に不足しがちな栄養素を多く含むおすすめ食材と、その栄養を効率よく摂取できる“食べ方”を、気になる病気や身体の不調別にご紹介。目指すは健康で長生き。

 今日から、さっそく食事改善を。まずはあなたの“栄養失調度”を今すぐチェック!

【実は栄養失調!? チェックリスト】
・ファストフードをよく食べる
・ランチはいつもコンビニ弁当
・食事制限ダイエットをしていたことがある
・食卓に上がる食材に偏りがある
・炭水化物だけの食事が多い
・食べ物の好き嫌いが多い
・フルーツはあまり食べない
・肉大好き! 魚はほぼ食べない
※ひとつでも当てはまったら新型栄養失調の恐れあり!

「ボケない」食べ方のコツ

 身体や心のあらゆる活動をつかさどる脳の働きが低下する認知症。新型栄養失調が、その発症要因となる可能性も見逃せない!

 認知症には複数の種類があるが、中でも最も多いのは脳の一部が萎縮して起こる「アルツハイマー型認知症」で、全体の約7割。次に多いのが、脳出血や脳梗塞などの原因により脳組織が死滅して起こる「脳血管性認知症」で、全体の約2割を占めている。発症は遺伝的な要因もあるものの、食生活などの生活習慣がその発症に影響を及ぼすと言われている。

「遺伝的要素以外で、認知症の大きな要因となるのは、やはり老化。完全に止めることはできませんが、毎日の食事で老化を促す“活性酸素”の発生を抑えることは可能です。赤ワインに含まれるポリフェノールや抗酸化ビタミンと呼ばれるビタミンA・C・Eなど、抗酸化物質を多く含む食品が有効でしょう」(東京慈恵会医科大学付属病院栄養部係長の赤石定典さん・以下同)

 抗酸化物質だけでなく、葉酸にも活性酸素の発生を抑えて脳の萎縮を防ぐ働きがあると言われており、認知症予防のために積極的にとりたい栄養素のひとつ。サプリメントでとるイメージが強いが、身近な野菜では豆苗に多く含まれる。これなら家計にも優しくて、毎日の食卓にも取り入れやすい。

 また青魚に多く含まれる必須脂肪酸のEPAやDHAは、その摂取量が多いほど認知症の発症率が少ないともいうデータも。缶詰などを活用して習慣的な摂取を心がけたい。

【おすすめ食材はコレ!】
◎青魚……刺身や缶詰で効率よくEPA・DHAを!
 EPA・DHAは熱に弱いため、効率的にとるなら刺身が正解。水煮缶もおすすめで、缶汁ごと食べるのがポイント。焼き魚でも焦げないように注意すればEPA・DHAを8割程度摂取できるが、フライにするとその量は半減してしまう。

◎赤ワイン/1日1〜2杯を楽しんで
 赤ワインは抗酸化作用のあるポリフェノールのうち、活性酸素の発生を抑えて老化を防ぐ作用が期待できるタンニンが豊富で、認知症予防にもおすすめ。とはいえ飲みすぎはかえって身体に毒。適量はグラス1〜2杯と心得ておこう。

◎豆苗/汁ごととると葉酸の摂取率がグンとUP
 認知症予防に効果的な葉酸が豊富な豆苗。葉酸は水溶性ビタミンのため、ゆでてから調理するとその含有量が大幅減。そのまま生で調理するか、スープにして汁ごと食べると、効率的に葉酸を摂取することができる。

【脳のアンチエイジングのための3つの習慣】
1.しっかり噛んで脳を活性化
 しっかり咀嚼すると脳の血流が増え、認知機能の維持につながる。意識してもついつい飲み込んでしまう場合は、玄米やナッツなど、噛まないと飲み込めない食材を選ぶのも手といえる。

2.野菜や果物の皮こそ栄養の宝庫
 りんごの皮のポリフェノールのように、野菜や果物の皮には健康効果の高い栄養が豊富。また皮ごと食べることで必然的に咀嚼の回数を増やせて、認知症予防につながる。

3.調理することも認知症予防に
「調理というのはとても頭を使う行為なので、認知症予防にはとってもおすすめ」と赤石先生。毎日のごはん作りは大変だけど、ボケにくくなると思えば、頑張れそう!

「免疫力がアップする」食事のコツ

 新型コロナウイルスの感染拡大が心配な今、ウイルスから身を守るために、毎日の食事で身体の免疫力をしっかり高めるポイントとは?

 免疫力とは細菌やウイルス、がんなどから身体を守ろうとする防御機能だが、その力は加齢やストレス、乱れた生活習慣により低下してしまう。特に新型栄養失調による栄養の偏りは、免疫力低下を招く大きな要因となるため、感染症が気になる今、食生活の見直しが不可欠。

「身体の免疫力を左右する免疫細胞の約7割は腸内にあるとも言われており、免疫力アップのためにはまず腸内環境を健やかに整えることが大前提となります。そのうえで、さらなる免疫力アップのためにおすすめの栄養素として提案したいのが、牡蠣や牛赤身肉などに多く含まれている亜鉛です」

 亜鉛は身体の成長に関わる重要なミネラルのひとつ。細胞の新陳代謝を促す働きがあることから、免疫細胞を活性化する効果が期待できる。

「貝類は亜鉛を多く含む食材の代表格。中でも牡蠣に最も多く含まれています。肉類だと牛赤身肉や豚レバーもおすすめです」

 またビタミンCには白血球を強化して免疫力を高め、抗ストレス効果もある。ストレスは免疫力の大敵。朝食やおやつなどに、ビタミンCが豊富な柑橘類を食べる習慣をつけて免疫力アップを目指そう。

【おすすめの食材はコレ!】
◎牡蠣……レモンやカボスを添えて吸収率アップ!

 牡蠣に含まれる亜鉛は身体に吸収されにくい栄養素。効率的に吸収させるためには、柑橘類など酸味のある食べ物に多く含まれるビタミンCやクエン酸と一緒に摂取するのがおすすめ。牡蠣フライには、レモンをしぼって食べる習慣を!

◎牛赤身肉……まいたけをのせておくと肉がやわらかく!
 牛肉を調理する際、下ゆでをすると栄養素が溶けだすので、煮汁ごと食べる工夫を。た、亜鉛がとれるけど固さが気になる赤身肉のステーキは、焼く前にまいたけをのせて3時間ほどおくとタンパク質分解酵素が肉をやわらかく仕上げる。

◎みかん……白いすじを取ると健康効果ダウン!
 みかんの房についている白いすじにはポリフェノールの一種であるビタミンPがたっぷり。免疫力アップに欠かせないビタミンCの吸収を高めてくれる働きがあり、取って食べるとみかんの健康効果が激減してしまう。

【善玉菌を増やす「発酵性食物繊維」】
 免疫力アップのために腸内環境を整えるには、善玉菌である乳酸菌と、善玉菌のエサになる食物繊維の摂取が不可欠。実はこの食物繊維にはいくつかの種類があり、免疫力アップのためには「発酵性食物繊維」が最も有効、と赤石先生。

「発酵食物繊維とは水溶性食物繊維の一種。善玉菌のエサとなり腸内で発酵することで短鎖脂肪酸を発生させ、身体の免疫機能を高めてくれる働きが」。

 発酵性食物繊維を多く含む食材は、大麦、ごぼう、キウイ、海藻類など。「大麦は雑穀米として食べたりスープに入れるなどして。キウイは皮ごと食べると食物繊維を効果的にとれるんですよ!」

(取材・文/中村明子)
資料:平均寿命(平成22年)は、厚生労働省「平成22年間全生命表」、健康寿命(平成22年)は、厚生労働科学研究費補助金「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」より。[出典]厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会・次期国民健康づくり運動プラン策定専門委員会「健康日本21(第二次)の推進に関する健康資料」25ページ


赤石定典さん ◎東京慈恵会医科大学附属病院栄養部係長、管理栄養士。メディアへの出演も多く、芸能人の食生活などの指導を行うなど幅広く活躍。共著に『美肌、太らない、老けないは食べ方が9割』(PHP出版)など。

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