梅雨が明ければ、今年も猛暑がやってくる。気をつけなければいけないのが熱中症だが、高齢者の中には「身体に悪い」「電気代がかかる」と、エアコンを使用しない人も多い。そんな“思い込み”をスッキリさせる、身体と財布に優しいエアコン生活の“処方箋”とは!?
高齢者の方は暑さに気がつきにくい
気象庁の『3か月予報』によると、今年の7月~9月の気温は全国的に平年より高くなるという。そう、今年もまた猛暑が襲ってくるのだ──。
上手にエアコンを使用して暑さ対策を講じよう! 環境省などがそう呼びかけてはいるものの、「エアコンは身体に悪い」、「電気代がかさむ」などの理由からエアコンの使用を控える高齢者は多く、毎年、熱中症になってしまう人は後を絶たない。
東京消防庁によれば、昨年(令和元年)の熱中症による救急要請時の発生場所は、『住宅等居住場所』が約4割で最も多く、次いで『道路・交通施設』が約3割。さらに、全体の救急搬送人員の約半数が高齢者(65歳以上)で、うち約5割が入院の必要がある中等症以上と診断されている。エアコンの使用を敬遠したばかりに、大きな代償を支払う……そんな高齢者は少なくないのだ。
「屋内で熱中症になっている人の約8割は、高齢者といわれています」
そう指摘するのは、帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長・三宅康史先生。日本救急医学会『熱中症に関する委員会』の元委員長で熱中症のスペシャリストだ。驚くことに、高齢者は自覚がないまま、日常生活の中で熱中症に陥ってしまうという。
「年齢を重ねると基礎代謝が落ちてくるため、高齢者の方はそもそも暑さに気がつきにくい。若い人であれば、暑い=不快と身体が反応するため、冷たい飲み物を飲んだり、エアコンをつけたりするのですが、高齢者は不快に思わないため、我慢できてしまう」
われわれの身体は、体温37℃を維持しながら働くようにつくられている。体温が上がった際には汗をかいたり、身体の表面から熱を空気中に逃がしたりする。ところが、身体の中の熱量がコントロールできなくなると、体温が高くなり脳を含めた重要臓器の機能が低下。結果、熱中症を引き起こす。
基礎代謝が鈍化している高齢者は、熱量の調整も若いころとは異なる。夏日にもかかわらず長袖を着ている高齢者が少なくないのは、こういった理由からだ。
「不快だな」と感じたらエアコンをつける
「熱波が押し寄せているときは、特に注意が必要です。扇風機や窓を開けることで1日くらいは乗り切れるかもしれません。ですが、何日も猛暑日と熱帯夜が続くと部屋の中に熱気がたまり、本人が気づかないうちに身体が悲鳴を上げてしまう」
気がついたら救急車の中……そんな事態にならないために、「室内のわかりやすい場所に温度計を設置してください。30度を超えたらエアコンを入れることを習慣化してほしい」と三宅先生はアドバイスを送る。身体の反応が鈍くなっていても、温度計があれば視認できるというわけだ。
とはいえ、節電の観点からかたくなにエアコンの使用を拒む高齢者もいる。
「ポイントを押さえれば夏場のエアコンの電気代は抑えられます」
とは、節約アドバイザーで消費生活アドバイザーの和田由貴さん。エアコンにまつわる誤解を解説する。
「設定温度と室温に開きがあればあるほどコンプレッサーが稼働するため、電気代が高くなります。設定温度に達すればあとはキープするだけですから、電気代も安定します」
例えば、室温が32℃まで上がって、25℃に設定したとする。7℃も下げなければいけないためエアコンはフル稼働。当然、電気代も高くなる。スイッチを入れた直後に消費電力が大きくなるのはこのためで、設定温度と室温に開きがなければ、実はさほど大きくはならない。
つまり、「もう限界!」と我慢の果てにオンにするよりも、「不快だな」と感じるくらいのときに設定温度を高め(28℃前後)にして稼働させたほうが、身体にも財布にも優しいのだ。
また、「設定温度を下げるよりも体感温度を下げる工夫をしたほうがいい」とも。
「扇風機やサーキュレーターと併用することで、冷たい空気を循環させれば、高い設定温度でも十分涼しく感じられます。扇風機の電気代はとても安く、強風であっても1時間1円ほど。
最近はやっているDCモーターの扇風機であれば、電気代はその10分の1です。エアコンの設定温度は1℃変えると10%ほど消費電力が変わるといわれています。設定温度を下げるよりも、扇風機を併用したほうが節電につながります」
風量に関しては、微風と強風で電気代に大きな差はないとのこと。むしろ、微風にしていると部屋の温度が下がりづらいため、コンプレッサーの稼働率が高くなることも。エアコンの風が直接当たることを嫌がる高齢者への助言として、
「風向きは『水平』か『自動』がいいと思います。冷たい空気は、部屋の下にたまるため、風向きを天井に対して水平にすることで、冷気が上から下へ下りながら全体的に部屋を冷やしてくれます」
室内の熱中症問題のすべてを解決する
電気代がもったいないという理由から、除湿運転(ドライ運転)を使用する人もいると思うが、ここにも落とし穴があるという。
「再熱除湿という機能がついている機種の場合、いったん冷やした空気を再度温めて出す機能ですから、普通の冷房運転よりも電気代が高くなります。あくまで除湿運転は梅雨時の湿気が多いときや、冬場に洗濯物を室内に干す際などに使う機能。原則として夏場の暑い時期は 、冷房運転で設定温度を控えめにするのがいちばんの節電になります」
前出・三宅先生もエアコンの使用を推奨する。
「氷嚢を頭に当てる、冷えたタオルを首に巻く以上に、最も効果的なのはエアコンです。室内の熱中症問題のすべてを解決する根本です」
そのうえで、3度の食事をバランスよく食べることと、水分補給のタイミングを決めることが大事だと釘をさす。
「高齢者が熱中症対策をする場合、自分の身体や病気も視野に入れることを忘れないでください。熱中症対策は、水分や塩分をとることを推奨していますが、高齢者の多くは高血圧や心臓の病気を抱えています。塩分をとりすぎると血圧が上がって脳卒中を引き起こしたりするため、とりすぎてもよくない」
対策も、“過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し”なのだ。
「毎朝、決まった時間に体重、血圧、脈拍、体温を記録しておく。体重が増えてきたなら水分を、血圧が上がっていたら塩分を控える。日々のメモがあれば熱中症対策をまじえながら、かかりつけ医を含む医者との連携もスムーズになる。持病を持っている方は熱中症対策だけに気を取られないようにしてください」
エアコン掃除の危険性とコツ
節電を心がけてエアコンを使用する際に、留意しておきたいのが掃除方法。昨今は、市販されている洗浄スプレーを使った結果、洗浄液や結露水などの液体が電源基板に付着し漏電。火災につながるといったケースも散見される。
「洗浄スプレーを吹きつけて、汚れを奥に押し込み、ドレンホースから排水として出すことで掃除を行うのですが、汚れがすべてドレンホースから出ていくわけではありません。たいていの場合は汚れと一緒に奥に詰まってしまう。
正面から見ると、一見きれいに見えるのですが、実際にはホースの奥で汚れが目詰まりしている可能性が高い。残った水分による漏電の危険性を含め、きちんとした掃除を行う場合は、業者に頼んだほうが賢明でしょう」(和田さん)
フィルター掃除についてもコツがあるという。
「ハイシーズンは2週間に1度、掃除機でホコリを取るだけでもいいので掃除をしてください。カビ汚れの防止にもつながりますし、フィルターが目詰まりしていると電気代も無駄にかさみます。また、冷房を止める前に5分程度、送風運転にしてから停止すると◎。
エアコンが冷えた状態から急激に常温に戻ることで結露が生まれ、中のホコリに付着しカビになります。送風にすることで、結露しづらくなります。オフシーズンも、月に1回5~10分ほど送風運転を行えば、中にホコリがたまりづらくなるのでオススメです」
ちなみに、エアコンの平均使用年数は13年ほど。ここ10年くらいの機種と最新の機種でも、大きく年間の電気代は変わらないそう。急いで買い替える必要もなし!
(取材・文/我妻アヅ子)
●みやけ・やすふみ 帝京大学医学部救急医学教授。帝京大学医学部附属病院高度救命救急センター長。専門は救急医学。日本救急医学会『熱中症に関する委員会』委員長を務めた。
●わだ・ゆうき 消費生活アドバイザー、家電製品アドバイザー、食生活アドバイザー。財布にも地球にも優しいスマートで賢い節約生活を提唱。フジテレビ系『ホンマでっか!?TV』などにも出演。