厚生労働省の将来推計によると、2025年には65歳以上の5人に1人、約470万人が発症するといわれる認知症。国民病ともいえる病気の介護・医療費で老後不安が増すなか、2016年に太陽生命保険が業界初となる認知症保険を発売。その後も認知症に特化した保険は増え、今年に入って日本生命、住友生命、明治安田生命などの大手生命保険会社からも相次いで新商品が登場した。
「これまで、認知症は、民間の介護保険のなかにある保障対象のひとつにすぎませんでした。しかし、昨今の“長生きするリスク”に対して保障ニーズが高まり、各社、認知症に特化した保険を投入するようになったと考えられます」
そう教えてくれたのは、介護分野にも詳しいファイナンシャルプランナーの黒田尚子さん。認知症をともなうと、一般的な介護よりも経済的な負担が大きくなる可能性が高いという。
「ほとんど完治が見込めない病気ゆえに、経済的な負担は一生続きます。介護・治療費をカバーする『治療型』認知症保険について、早めに情報収集して損はありません。最近は、発症の早期発見・予防に力を入れたものが増えており、骨折など、ほかの病気の保障、死亡保障など、プラスαの保障が充実しているものが多いのも特徴です」(黒田さん、以下同)
認知症保険、どう選ぶ?
認知症が原因の行方不明者は、2012年から7年連続で最多を更新。認知症患者の交通事故も増加傾向にある。
「認知症を発症すると、乱暴になりがちで、他人に危害を加えたり、お店のものを壊したりすることも。個人賠償責任を補償する『損害補償型』の認知症保険が支えになると思います。民間の保険をカスタマイズして独自に救済制度を運用している自治体も出てきていますが、まだ少数。家族単位でリスクに備える必要があります」
自分に合った保険を賢く選んで、認知症で起こる“まさか”に備えよう!
「生涯続く介護・医療費の負担に備えるのが『治療型』認知症保険です。契約年齢の対象は20〜80代と幅広いですが、加入者の中心は、親の介護を経験し“今度は自分の備えを”と考える60代女性が圧倒的ですね」(黒田さん、以下同)
主な種類は、認知症と診断確定されたときに一括で保険金が受け取れる“一時金タイプ”と、診断後から一生涯、保険金を受け取れる“年金タイプ”がある。
「在宅介護のリフォーム資金や介護用品の費用が心配なら一時金タイプ、治療費や介護費用が不安なら年金タイプ。どちらも不安であれば、一時金+年金タイプもあるので、保険料も含めて検討を」
『ひまわり認知症予防保険』(太陽生命)で一時金100万円の保険に女性が60歳で加入すると、月々の保険料は約5600円(終身)。75歳で発症した場合、保険金と支払う保険料がほぼ同額に。2年に1度、2万円の予防給付金があり経済的な不安の備えと認知症予防に注力できる。治療費以外の不安要素としては、
「認知症患者の家族に聞くと、徘徊による捜索費用も負担が大きいといいます。捜索時のタクシー代やヘルパーさんの人件費に数万円、探偵を雇って10万円というケースもありますが、これらは公的介護保険でカバーできません。月々数百円の保険料で、20万円程度の保険金を受け取れるものもあるので、少しでも備えておくと安心につながります」
そして、認知症保険に加入する際は、家族に知らせておくのが肝心だ。
「発症すると保険自体を忘れてしまうので、保険料の払い込みが滞っていないか家族が確認できるといいですね。また、発症後の本人に代わって保険金の請求などができる“指定代理請求人”に家族がなっておくことも忘れないでください」
『治療型』認知症保険はここをチェック
■《CHECKポイント1》保険金がもらえる条件は?
保険を選ぶ前に、まず支払い対象になる状態を知っておこう。
「保険商品の給付条件によく見られる“所定の認知症”とは、主にアルツハイマー型認知症、脳血管性認知症など、器質性認知症のことを示し、認知症を患った8~9割弱の人が該当します」
ただし、所定の認知症と診断されても、不担保期間(保険金が支払われない期間)を過ぎないとお金は受け取れない。不担保期間がないものから数年程度まで、商品によって異なるので注意が必要。
【認知症保険の主な給付条件】
1.器質性認知症……脳の組織の変化によって起きる認知症と診断確定
2.見当識障害の有無……時間、場所、人物などがわからない状態かどうか
3.所定の要介護状態の認定(要介護1、2など)
■《CHECKポイント2》“予防”のための給付金がある?
認知症は発症すると完治が困難な病気だが、軽度認知障害(MCI)の段階でなら、25%程度の人が健常な状態に回復するとされる。
「早期発見と予防に重点をおいた保険は増えていて、数年ごとに予防給付金が受け取れる、MCIの診断確定で認知症一時金の一部が支払われるなど保障内容が広がっています。給付金を診断費用にあてることで定期的な検査を受けるきっかけになりますし、MCIの早期発見で、本格的な発症を防ぐ治療が始められます」
◎日本生命『みらいのカタチ 認知症サポートプラス』
(問い合わせ 0120-201-021)
早期発見と重症化予防を促すため、MCIと診断確定された場合、認知症診断保険金の10%を一時金で給付。認知症と診断確定された際は、認知症診断保険金が一時金で受け取れる。
◎太陽生命『ひまわり認知症予防保険』
(問い合わせ 0120-04-2233)
認知症の診断確定時の保障に加え、2年ごとに受け取れる予防給付金を活用した予防への取り組みを支援。認知症予防アプリや給付金請求手続きをサポートする“かけつけ隊”サービスも。
払い込み免除や付帯サービスも確認を
■《CHECKポイント3》保険料の払い込み免除がある?
認知症より先に要介護状態や三大疾病になったら保険料を払い続けられるか、そんな不安を解消する保険が登場している。
「要介護1でも保険料の支払いが免除される商品が登場したのは驚きでした。要介護1といえば、歩行がふらついたり、イスやベッドから立ち上がる際に少し介助が必要になったりする程度なので。また、がん、心疾患、脳卒中の三大疾病も治療費が多くかかるので、保険料免除は心強いですね。認知症と診断されれば、介護や治療の費用が継続的にかかりますから、いざというときまで保障が続くのは大きな安心感につながると思います」
◎SOMPOひまわり生命『笑顔をまもる認知症保険』
(問い合わせ 0120-653-653)
三大疾病による所定の事由に該当した場合の保険料払い込み免除や、要介護1での介護一時金、要介護3以上で生涯にわたる介護年金給付のオプションがある。骨折治療の保障も。
◎朝日生命『あんしん介護 認知症保険(年金タイプ・一時金タイプ)』
(問い合わせ 0120-714-532)
「要介護1」以上に認定で、その後の保険料の払い込みは不要。「要介護1以上かつ所定の認知症」の場合、年金または一時金をお支払い保険料が給付。MCIの保障特約も組み合わせ可能。
■《CHECKポイント4》付帯サービスは充実している?
保障内容以外の検討要素として、脳トレや歩行速度の測定、食事管理などができる認知症予防アプリや介護や健康についての電話相談など、保険会社独自の付帯サービスがある。
「最近は、認知症患者とその家族を支えるサービスがますます充実し、保険金申請に必要な診断書取得の代行や自宅訪問を行う会社も。認知機能が低下した契約者の代わりに家族が保険内容を管理できるものもあります。介護の負担が大きい家族にとって、お金以外の不安を取り除くサービスは心強いと思います」
◎住友生命『認知症PLUS』
(問い合わせ 0120-199366)
認知症などになった場合でも、あらかじめ登録したご家族が契約内容を確認したり、手続きができる業界初の「契約者代理制度」などからなる“スミセイのご家族アシストプラス”を提供。
◎第一生命『ジャスト 認知症保険』
(問い合わせ 0120-001-008)
目の動きだけで脳の状態と認知機能がチェックできる予防アプリや家族の要望に応じてALSOKのガードマンが被保険者の自宅に駆けつける“代わりに訪問サービス”などを提供。
『損害補償型』認知症保険の選び方
■《CHECKポイント5》補償内容の重複はない?
『損害補償型』認知症保険とは、認知症を患った人が他人や他人のものに与えてしまった損害を補償するものをさす。
「認知症の親が事故を起こしたとき、子が監督責任者として責任を負う場合もあるので、子ども世代も興味をもっておいたほうがいいですね。認知症の発症後でも入れる保険は少なくないので、今まさに介護中という人も検討可能です」
例えば『リボン認知症保険』の場合、年額2万円からの掛け金(1年更新)で500万円補償され、隣家のガラスを割ったり、介護施設内で他人にケガをさせた場合にも保険金が払われる。
「自動車事故などは、すでに本人が加入している自動車保険で補えるかもしれませんから、補償内容の重複がないか確認を。また最近は、神戸市の認知症事故救済制度のように自治体が民間の賠償責任保険に加入し、個人が損害賠償責任を負ったときに補償される取り組みもあります。補償内容は自治体によって異なるので、住んでいる地域が該当するか確認してみましょう。
◎東京海上日動 からだの保険『認知症あんしんプラン』
(問い合わせ 0120-868-100)
行方不明時の捜索費用に30万円、線路への立ち入りによる電車の運行不能賠償費用は1億円まで補償(国内無制限の契約も可能)。40歳以上の認知症患者が保険の対象となる。
◎リボン少額短期保険『リボン認知症保険』
(問い合わせ 044-544-1111)
年間約2万円からの掛け金で、最大1000万円補償。認知症と診断された後からの加入も可能。他人のものを壊したりケガをさせた場合はもちろん、トラブル解消の弁護士費用も補償。
(取材・文/河端直子)
【PROFILE】
黒田尚子さん ◎CFP(R)、1級FP技能士。乳がんの経験から、病気への経済的備えの重要性を訴え、老後・介護・消費者問題にも注力。『50代からのお金のはなし』など著書多数。